お前ら地獄行きっ!

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お前ら地獄行きっ!

「はあぁぁぁぁ!!??」  地獄関係者を除く、その場に居る亡者達の罵声やブーイングが響き渡った。そんな俺達に対して、エンマは淡々と説明する。 『お前ら“仏教の五戒”を知らないのぉ。不殺傷、不妄信、不倫盗、不邪婬、不飲酒。どれか一つを破っている時点で地獄行きの可能性大なんだよねー。善行が悪行を超えていれば話は別だけど』  少なくとも不殺傷を実現出来る輩は居ないだろうが! 蚊や蟻をうっかり殺めることすら許されないのか……。地獄、恐ろしや。 『不殺傷は豚肉や鶏肉を食す時点でアウトだからねぇ。この中で五戒を破った数より善行の数が多かった人は居ない。という訳で先程言った通り、大半の地獄裁判は、お前らの行き先となる地獄を決めるだけでーす!』  果たしてそれは裁判なのか? せめて無罪判決を下すための猶予をくれよ、ぶりっ子AIが。俺が毒づいていると、エンマはでもぉ、と話を続けた。 『エンマにも多少は善意があるし、人の心や感情も学習したからぁ。純粋な人は天国で贅沢三昧、遊び放題な日々を暮らせるように考慮してあげるよぉー。……まぁ、心がどす黒く濁っている人はお察しの通りだけどねぇ』  エンマは少しの間俯くと、目線を前に向けた。次に法壇に上がり、人差し指を列の一番先頭に居る奴に向ける。 『じゃあ、準備完了。地獄裁判を始めまーす。お前の名は山田(やまだ)太郎(たろう)だねぇ。知人の女性を複数回刃物で刺して死亡させた、殺人の疑い……。うん、間違いなく地獄行きだけど、反論は?』 「ぼ、僕はそんなこと、や、やって」 『声が上擦っているぅ。天国行きはあからさまに危険と判断したので、地獄へ堕ちろっ』  山田と呼ばれた男性にそう吐き捨てると、エンマはありったけの力を込めて、ガベルをベースに振り下ろした。すると瞬きをした間に、山田の姿は消え失せていた。いやちょっと待て、どんな仕組み!? 俺の心の叫びに反応する奴は、勿論居なかった。 『はーい、次の方どうぞぉ!』  その後も地獄裁判(九割は地獄行きだった気がするが、気にしない)は続き、遂に俺の番になった。まあ俺は天国行きだろうな、間違いなく。そう自信満々だったのに、背丈が俺と同じくらいのエンマは、少し屈み込んで俺の瞳を覗き込んでから、こう言った。 『ほんのちょっとだけ、時間貰うねぇ。お前は引き止めないと駄目そうだぁ』
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