俺の地獄裁判

2/2
前へ
/7ページ
次へ
 ガッツポーズをしたいところだが、油断禁物。人とは隠し事が一つや二つはある生物だ、俺も嘘付いたって良いじゃないか、それの何が悪い! 『俺もその一人ってぇ……お前も窃盗症を患っているのぉ? それ、本気ぃ? そんなデータ、私が収集した情報の中には無いんだけどぉ。過去にインプットした記憶もゼロだしー』 「そうだろうな。クレプトマニアのこと、誰にも話したことねぇからなぁ!」  俺は法壇をバン! と勢い良く叩く。左横から幹部が「貴様、エンマ様に何をしようと!」と割り込んできたが、それをエンマは人差し指でストップさせる。 『いーのよぉ。好きなだけ自分語りしてもらいましょー』 「は……はぁ……」  幹部が咳払いをして、一歩後ろに下がる。俺はそれを確認してから一か八か、声を震わせながら偽のエピソードを話した。 「きっかけは中学生時代のいじめだった。俺はいじめっ子に指示されて、初めて万引きを犯したんだ。でも、奇跡的にバレなかった。俺には万引きの才能が授けられたらしい。そうやって指図されては駄菓子やらカードパックやらを盗んでいる内に、中学校を卒業。俺はいじめっ子達から解放されて、自由の身になった」  エンマは冷たい目でこちらを見ている。AIなりに何かを感じ取ろうと努力しているのだろうか。とりあえず俺は、俺のために頑張るだけだ。存分に息を吸い、「けどなあ」と哀愁を表現した。 「俺は数年の間で、手癖が悪くなっていた。高校帰りにコンビニに寄り道をすれば、気が付いたときには自室だった。そして学校指定のバックを漁れば、盗ってきた品々が出てくる。何度か二重人格を疑ったけど、違った。俺は盗みに関してだけ、悪魔に呑み込まれたかのように…………」 『うんうん、ありがとねぇ。そこまでで結構だよー』  エンマは俺の話を遮り、不吉な笑みを浮かべる。人の話は最後まで聞けよ、亡者ではあるけど。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加