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「俺さ…、小さい頃に親が離婚してて、父子家庭だったんだよね」
「…そう、なんだ」
知らなかった事実に驚く私に、彼は目を細めて続ける。
「だからさ、おばあさんの料理が本当に美味しかった。あの賑やかな時間も忘れられない」
彼の言う通り、祖母の料理はお洒落ではない田舎料理だけれどどれも絶品で、そして祖父はイタズラ好きなガキ大将のような人。
優しくて温かい人たちだ。
でもそれが、時たま私の心を苦しめていた。
二人に叱られたことも怒られたことも、ましてや喧嘩をしたこともない。
「私も。あの賑やかな時間が好きだった。…私親いないから」
「…会いたいなら会いに行ってみたら?」
「うーん…、興味ない」
「そっか」
「うん」
会話が途切れ沈黙が訪れた時、私のスマホが着信を知らせた。
「ちょっと、ごめんなさい」
「どうぞどうぞ」
「もしもし」
『明桜、今どこにいんの?』
「いつものカフェだけど」
『暗くなってきたから、迎えに行く』
「え、いいよ。遠いし」
『てか、そんなことだろうと思って近くまで来たから』
「えっ、ちょ」
そう言いかけた私の言葉は、無理やり遮断された。
「大丈夫?」
「…えっと…、迎えがそこまで来てる」
「じゃぁ、出ようか」
「…うん」
本当はもう少し、何かをなんでもいいから話していたかった。
でも、不器用な私にそんな技術はなくて、席を立ち諦めて外を見れば、遠くの海に沈む日本海の夕日が視界を奪う。
「…綺麗」
「ん?あぁ、夕日。…本当に綺麗だね」
「昔も海の夕日、見たよね」
「覚えてる、懐かしいな」
ハハッと小さく笑う彼の横顔に、昔の景色を重ねた。
『懐かしい』と言う言葉で表せないくらい、不思議で複雑な想いが溢れていく。
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