第三話 『線香花火と熱い夜』

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「俺さ…、小さい頃に親が離婚してて、父子家庭だったんだよね」 「…そう、なんだ」  知らなかった事実に驚く私に、彼は目を細めて続ける。 「だからさ、おばあさんの料理が本当に美味しかった。あの賑やかな時間も忘れられない」  彼の言う通り、祖母の料理はお洒落ではない田舎料理だけれどどれも絶品で、そして祖父はイタズラ好きなガキ大将のような人。  優しくて温かい人たちだ。  でもそれが、時たま私の心を苦しめていた。  二人に叱られたことも怒られたことも、ましてや喧嘩をしたこともない。 「私も。あの賑やかな時間が好きだった。…私親いないから」 「…会いたいなら会いに行ってみたら?」 「うーん…、興味ない」 「そっか」 「うん」  会話が途切れ沈黙が訪れた時、私のスマホが着信を知らせた。 「ちょっと、ごめんなさい」 「どうぞどうぞ」 「もしもし」 『明桜、今どこにいんの?』 「いつものカフェだけど」 『暗くなってきたから、迎えに行く』 「え、いいよ。遠いし」 『てか、そんなことだろうと思って近くまで来たから』 「えっ、ちょ」  そう言いかけた私の言葉は、無理やり遮断された。 「大丈夫?」 「…えっと…、迎えがそこまで来てる」 「じゃぁ、出ようか」 「…うん」  本当はもう少し、何かをなんでもいいから話していたかった。  でも、不器用な私にそんな技術はなくて、席を立ち諦めて外を見れば、遠くの海に沈む日本海の夕日が視界を奪う。 「…綺麗」 「ん?あぁ、夕日。…本当に綺麗だね」 「昔も海の夕日、見たよね」 「覚えてる、懐かしいな」  ハハッと小さく笑う彼の横顔に、昔の景色を重ねた。  『懐かしい』と言う言葉で表せないくらい、不思議で複雑な想いが溢れていく。  
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