第二話:何かが違う夏休み

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「実は鼻緒が切れてしまって」 「え、大丈夫?」 「はい。ギリギリのところで廉が助けてくれたので」 「そっかそっか、良かったね~。男前は違うね」  そう言って、廉の肩を叩く先輩を彼は軽くあしらって私の部屋へと入った。 「あ、れんれん。そのまま襲っちゃダメだよ?」  思わず咳き込む私を他所に、廉は冷静に返す。 「その言葉そっくりお返ししますよ、先輩」  久しぶりに見る、彼の至極意地悪な笑顔。    先輩はクスクスと楽しげに笑っていた。  廉の意地悪をあんなにも楽しめるなんて、さすが大人の余裕がある男は違うな。  完全に扉が閉められれば、廉が私をようやく解放した。 「あ、ありがとう」 「おぉ、背中が軽くて飛んでいきそうだ」  だからあれ程下ろしてと言ったのに、こいつは二重人格かそれとも極度の忘れん坊なのか。 「最低っ」  睨み付けて吐き出せば、カラカラと愉快そうに彼が笑う。  完全におもちゃにされている。 「いいから早く出ていってよね!」 「おわっ、ちょっ、いきなり押すなって」  そんな言葉に耳を傾けず、押し続けたのがいけなかったのだろうか。 「きゃっ!」 「バカっ!」  何が起こったのか状況を読み込むまでに、数分ほどかかった。 「痛ってぇ…」  その言葉が自分の頭上から、至近距離で漏れる。  私の下には逞しい胸筋があり、自分のものではない心音。  急いで上を向けば、こちらを覗き込む廉と目が合った。 「大丈夫か?」 「…あ、だい、じょうぶ…」 「だから、暴れんなって言ったのに。さすがに使いすぎた今の足じゃ、いつもみたいに俊敏には動けねぇよ。まぁ、頭はクッションのお陰で助かったけどな」  その説明に勢い良く飛び起きた私は、急激に体温が上昇したせいで汗が止まらなくなった。 「ご、ごめん!お風呂入ってくるら、また明日ね!じゃぁ、今日はありがとう」 「え、おい、お前怪我はないのかよ」 「ありませーーーん!!!」  私は扉を開けながら振り返りもせずに、家中に響き渡る声で叫んで部屋を飛び出した。               第三話 『線香花火と熱い夜』に続く。
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