8人が本棚に入れています
本棚に追加
第三話 『線香花火と熱い夜』
夏休みに入って、一週間が過ぎようとしている。
早くも八月が迫り来る中で、私は盛大にため息をついていた。
「はぁ~っ」
「あんた、さっきからため息うるさいよ。私の部屋が全部ため息だらけじゃない」
「だって千秋ぃ…、私どうしたら良いの」
「そんなの知らないわよっ!自分で考えなさい!」
「えぇー!千秋の鬼ぃ~!」
何をこんなに悩んでいるのかと言うと、時間は昨日の夜に遡る。
「あ、大谷ちゃん。俺来週の月曜日から三日間、実家に帰るね~」
「あらやっくん、三日しか帰らないの?」
「最後の大会が近いから、部活がてんこ盛りなのよ~。あ、今日のエビチリもボーノボーノ」
「うふふ、ありがとう。人気者は大変ね」
全員で食卓を囲み夕飯を食べていれば、先輩がそう告げた。
「行ってらっしゃいー、先輩」
「気を付けてください、先輩」
「ありがとう二人とも…。でも、もう少し気持ちを込めてくれないかな?」
「…あの、私…も、月曜日から…帰ります」
「えっ!?美月も帰るの?」
「そっか、気を付けるんだぞ」
「二人とも酷いよ」
わざとらしく先輩が廉の肩口で涙を拭えば、迷惑そうに退けられる。
「みっちゃんはどのくらい帰るのかしら」
「…一週間…くらいです」
「ゆっくりしておいでね」
「…はい、ありがとう…ございます」
「みょうちゃんと廉くんは?」
「え…っと…」
美月不在の一週間に心が折れそうになっていれば、大谷さんから問いかけられたが全く考えておらず口ごもる。
「俺は特にどこも行かないっす」
「あら、そうなの?」
「あ、私も…」
「…そっか!じゃぁ、三人で温泉にでも行く?」
「でも、大谷さんもお家のことがあるんじゃ…」
お茶目な笑顔の大谷さんに聞いてみれば、彼女は少し困ったように目線を左右に移しながら、『平気よ』と言いたげに笑ってみせる。
「大丈夫っすよ、俺たち適当に過ごしてるんで。大谷さんも夏休みを楽しんできてください」
「え、でも…」
「な、明桜」
「へっ、あ、う、うん。大丈夫ですよ」
様々な事柄が頭に浮かんだがそれを素早く書き消して笑えば、大谷さんは申し訳なさそうに再び笑った。
最初のコメントを投稿しよう!