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そして今に至る。
「三日間くらい、廉と二人でいることくらい平気でしょ。何?それともあんたたち、まずいことでもあるの?」
千秋が怪訝そうにこちらを見るが、その眼光が鋭くて苦笑いを浮かべる。
彼女は恐らく、面白がっているのだろう。
「…別に」
「あっそ。進展あったら教えてね」
「し、進展なんてないしっ!」
「どうだろうねぇ~、まぁ、節度は守って。あ、そうそう、話は変わるんだけど、明日の登校日に新しい先生が来るみたいよ」
こちらの気も知らないで愉快そうに笑った千秋は、途端に真面目な顔で話し出した。
「こんな時期に?」
「図書館司書の田部先生が産休に入るからその代わりだって。しかも、相当のイケメンだとか!」
目を輝かせ話す彼女だが、毎回情報はどこから仕入れてくるのだろうかと不思議で仕方ない。
「へぇ~、そうなんだ」
「全然興味なさそうね」
「さほど」
「はぁ~、いいな。あんたはイケメンパラダイスだもんね」
「人を男たらしみたいに言わないで。あ、そろそろ帰んなきゃ」
時計を見れば、時刻は午後十八時半を回っている。
「もうそんな時間なのね。じゃぁ、また明日」
「うん、お邪魔しました。また明日」
彼女のラブリーな部屋を出て下に降りると、煮物の香りが鼻を掠めた。
「あら明桜ちゃん、もう帰るの?お夕飯食べていったらどう?」
柔らかな笑顔を浮かべる千秋のお母さんが、少し残念そうに問いかける。
「すみません、大谷さんがご飯を作ってくれているので」
「そうなのね、それなら仕方ないわね。また遊びにきたときには是非ね」
「ありがとうございます」
何の悪気もない優しさが、時おり幼い胸を締め付ける。
きっと今、私は上手く笑えていないだろう。
「明桜、早く帰らないと大谷さん心配するわよ」
「うん。じゃぁね」
外はまだ暑くて、ムシムシしている。
流れる汗が、ベタベタして少しだけイラついた。
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