第三話 『線香花火と熱い夜』

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 そして今に至る。  「三日間くらい、廉と二人でいることくらい平気でしょ。何?それともあんたたち、まずいことでもあるの?」  千秋が怪訝そうにこちらを見るが、その眼光が鋭くて苦笑いを浮かべる。  彼女は恐らく、面白がっているのだろう。 「…別に」 「あっそ。進展あったら教えてね」 「し、進展なんてないしっ!」 「どうだろうねぇ~、まぁ、節度は守って。あ、そうそう、話は変わるんだけど、明日の登校日に新しい先生が来るみたいよ」  こちらの気も知らないで愉快そうに笑った千秋は、途端に真面目な顔で話し出した。 「こんな時期に?」 「図書館司書の田部(たべ)先生が産休に入るからその代わりだって。しかも、相当のイケメンだとか!」  目を輝かせ話す彼女だが、毎回情報はどこから仕入れてくるのだろうかと不思議で仕方ない。  「へぇ~、そうなんだ」 「全然興味なさそうね」 「さほど」 「はぁ~、いいな。あんたはイケメンパラダイスだもんね」 「人を男たらしみたいに言わないで。あ、そろそろ帰んなきゃ」  時計を見れば、時刻は午後十八時半を回っている。 「もうそんな時間なのね。じゃぁ、また明日」 「うん、お邪魔しました。また明日」  彼女のラブリーな部屋を出て下に降りると、煮物の香りが鼻を掠めた。 「あら明桜ちゃん、もう帰るの?お夕飯食べていったらどう?」  柔らかな笑顔を浮かべる千秋のお母さんが、少し残念そうに問いかける。 「すみません、大谷さんがご飯を作ってくれているので」 「そうなのね、それなら仕方ないわね。また遊びにきたときには是非ね」 「ありがとうございます」  何の悪気もない優しさが、時おり幼い胸を締め付ける。    きっと今、私は上手く笑えていないだろう。 「明桜、早く帰らないと大谷さん心配するわよ」 「うん。じゃぁね」  外はまだ暑くて、ムシムシしている。  流れる汗が、ベタベタして少しだけイラついた。
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