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登校日は、どうして毎年こうも暑いのだろうか。
しかも、うちの学校は夏休みしか登校日を設けていない。
「ねぇ、見て。野球部エースの日野くん、日焼けしてもイケメン~」
体育館に向かう途中、千秋が隣でよだれをすする。
「よしなよ、みっともない」
「見るだけただなんだから良いじゃない。それに、そういう存在がいると毎日楽しいの」
「そういうものかね」
「そういうものです。てか、明桜はないの?そういう存在」
「そもそも、そういう存在って何?」
「憧れ的な感じよ」
「それって、恋とは違うの?」
素朴な疑問を投げ掛ければ、千秋が少し難しい顔をして首をかしげた。
「人それぞれだと思うけど、私は一緒にしたくないわ」
「へぇ…」
彼女よりもっと眉間にシワ深く刻んだ私が相づちを打てば、彼女が得意気な顔でこちらに言い放つ。
「『好き』は特別だからよ」
「特別…」
「胸が苦しくなるのも鼓動が早くなるのも、頬が熱くなるのも、世界で一人だけだよ」
「…そう、なんだ」
そのセリフに、思わず言葉が詰まる。
「明桜どうしたの?後ろつっかえてるから早く歩きな」
ハッとして振り返れば、数名の生徒たちが困ったように笑っていた。
「す、すみません」
「急にどうした?ビックリしたわよ」
「えへへ、ごめん。なんでもない」
笑って誤魔化し体育館へと入れば、私の隣に腰を下ろした彼女が盛大に私の肩を叩いてくる。
「痛、どうしたの?」
「あの先生じゃない!?すごいかっこいい!」
千秋が指差す方を見ると、スーツ姿の見慣れない男性が立っている。
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