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「廉っ!ディフェンスっ!」
「ハイッ!」
キュッキュッと軽快に、バスケットシューズの音が鳴り響く体育館。
汗だくになりながら、ほぼ毎日バスケに撃ち込む日々が続く。
「よしっ、少し休憩しようか」
「「オスッ!!」」
水道まで顔を洗いに行けば、見知らぬ女子たちが声をかけてくる。
これも日常茶飯事で、よく毎日来るなと内心感心する。
「廉くん、かっこよかったです!このタオルよかったら」
「あ、悪い。俺タオルあるから」
「あ、あの!良かったら飲み物も」
「あ、大丈夫です」
さらりと交わすのも慣れたもので、日常茶飯事。
「おいおい、廉~。もう少し愛想振り撒けよ」
「そうだぞ!俺だったら一日おきに相手変えるな」
くだらない話でうざ絡みしてくるのは、友人の瀬野翔大と、主将で先輩の前島凛太郎さん。
「暑いからくっつかないでくれよ、翔大。あと、先輩の今の発言は最悪です」
「はぁ~、いつまでも初恋を拗らせてんなー」
「え、何?こいつ好きな人いんの?」
「凛先輩、いるも何もこいつ幼馴染みのめちゃんこかわいこちゃんに万年片思いしてるんすよ」
「おい、翔大。何勝手にっ」
「えぇー!めちゃくちゃピュアじゃんか~!」
個人情報が赤裸々に漏らされていくのは、仲が良すぎるせいだろうか。
「ちょ、先輩、声でかいっす」
止めにかかるも遅く、先輩は全員を集めていらないお節介を焼きはじめた。
「ちょ、みんな集合ー」
「なんすか?」
「急に何ですか」
「面白いことか!?」
「なんと、超絶モテ男の廉に好きな相手がいる!」
「な、先輩!」
「「おぉー!!まじか!!」」
「どんな子だ??」
「可愛いのか?」
なぜ、男子高校生がここまで人の恋話に盛り上がれるのだろう。
横目で翔大を睨めば、笑って誤魔化している。
自分は盛大にため息をついて、話を終わらせるために告げた。
「可愛くてスタイルよくて真面目。…ただ、俺の片思いで恐らくフラれます!」
「「…」」
これだけ潔く告げれば、誰も触れられないだろうと思った。
「…でも、まだ言ってないんだろ?」
空気を読まなかったのは、他でもない翔大。
「お前…」
「いや、こんなに大袈裟にしたのは悪かったよ。だけど、言う前に諦めるとかダサいじゃんか。言う前に、人の気持ちを決めつけるのはやめろよ。」
いつもよりやけに真面目で、そしてこのままじゃいけない気がして何も言えなかった。
そんな気持ちの変化が起こっていたその日、彼女の気持ちにも大きな変化が起こっていたことは、まだ知らない。
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