第三話 『線香花火と熱い夜』

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 日が傾き始めた頃、私は高校からバスで三十分以上かかる場所にある、隠れ家的なカフェへ来ていた。  あの後、図書室を出た私は聖也くんにこの場所を告げて学校を出た。    星空壮に戻り、制服から私服へと着替えてここまで来たのだ。  ここなら生徒はもちろん、職員もきっと知らない。  民家の中にひっそりと佇むこの店は、見た目も普通の民家で看板も小さいものが扉の上にひとつだけ。  おまけに店主の気まぐれで営業日が決まっている。   「明桜ちゃん、今日は待ち合わせかい?」  奥のテーブル席に腰を掛ける私へ問いかけるのは、白髪混じりの髪をおしゃれにセットした老紳士のマスターだ。 「そう。懐かしい人と少し」 「今日はまだ混まないから、ゆっくりしていってね」 「ありがとうございます」  お礼を伝えて微笑めば、マスターが穏やかな笑みを浮かべて続ける。 「明桜ちゃん、おばあちゃんとおじいちゃんは元気かな」 「…最近帰っていないので、なんとも。たぶん、…元気です」 「…そうか。ごめんね、答えたくなかったよね」  申し訳なさそうに謝るマスターが、お詫びと言ってチョコレートを二粒出してくれた。 「そんな…!マスターは何も悪くないですよ、だから」 「いいんだ、受け取って」 「…すみません、…ありがとうございます」  マスターと同じ顔をして頂けば、今の私には甘すぎるぐらいのカカオが口に溢れた。  それと同時に、店内に軽やかなベルの音が鳴り響くと、待ち人がこちらを見つけて口角を上げた。  私は微笑みながら、奥から控えめに手を振る。 「お待たせ。遅くなってごめん」  急いで来てくれたのだろう、少し前髪が乱れている。 「ううん、来てくれて嬉しい。…もしかしたら、来てもらえないかもって思ってたから」 「…来るよ、何があっても」  日暮の鳴き声と暑い西日が、私を染めていく。
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