8人が本棚に入れています
本棚に追加
/48ページ
「…会うの、いつぶりかな」
変わらない穏やかな笑顔と、綺麗な瞳を盗み見れば落ち着かない。
何を話して良いのかわからず、視線を足元や自分の爪に写しながら問いかければ、彼は変わらない柔らかい笑顔で答えた。
「十年くらい前かな、明桜の家に泊まらせてもらったの」
「…もう、そんな前なんだね」
私の祖父母がやっていた民泊で、都会の学生を受け入れて自然の良さを学ぶ活動をしていた。
自分が小学校三年生の時、高校生だった彼と初めて出会った。
それまでも何人も泊まりに来ていたけれど、都会の人はどこか強気で少し苦手だった私は、いつも二階の端っこで本を読んでいた。
そんな私に優しく声をかけてくれたのが、聖也くんだった。
『本、好きなの?』
『…うん』
『僕も好きなんだ。どんな本が好き?』
『…選べない』
『そっか、本当に本が好きなんだね。すごいね』
それまで部屋に籠りがちだった私は、大人に褒められることなどあまりなく、『すごいね』の言葉がとても嬉しかった。
きっとそれが、私の初恋。
「今は民泊は?」
「ううん、もう数年前にやめた」
「そうか…、おじいさんたちは元気?」
「…うん、たぶん」
「今、家にいないの?」
「下宿先で暮らしてるから、あんまり帰ってない」
「下宿先…。家にいたくなかった?」
唐突に的を得た質問を放たれて、言葉が詰まる。
「…どうだろう」
適当に笑って誤魔化せば、聖也くんは注文したアイスコーヒーを一口飲んで、ストローで少しかき混ぜた。
最初のコメントを投稿しよう!