第三話 『線香花火と熱い夜』

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「…会うの、いつぶりかな」  変わらない穏やかな笑顔と、綺麗な瞳を盗み見れば落ち着かない。  何を話して良いのかわからず、視線を足元や自分の爪に写しながら問いかければ、彼は変わらない柔らかい笑顔で答えた。 「十年くらい前かな、明桜の家に泊まらせてもらったの」 「…もう、そんな前なんだね」  私の祖父母がやっていた民泊で、都会の学生を受け入れて自然の良さを学ぶ活動をしていた。  自分が小学校三年生の時、高校生だった彼と初めて出会った。  それまでも何人も泊まりに来ていたけれど、都会の人はどこか強気で少し苦手だった私は、いつも二階の端っこで本を読んでいた。    そんな私に優しく声をかけてくれたのが、聖也くんだった。 『本、好きなの?』 『…うん』 『僕も好きなんだ。どんな本が好き?』 『…選べない』 『そっか、本当に本が好きなんだね。すごいね』  それまで部屋に籠りがちだった私は、大人に褒められることなどあまりなく、『すごいね』の言葉がとても嬉しかった。  きっとそれが、私の初恋。 「今は民泊は?」 「ううん、もう数年前にやめた」 「そうか…、おじいさんたちは元気?」 「…うん、たぶん」 「今、家にいないの?」 「下宿先で暮らしてるから、あんまり帰ってない」 「下宿先…。家にいたくなかった?」  唐突に的を得た質問を放たれて、言葉が詰まる。 「…どうだろう」  適当に笑って誤魔化せば、聖也くんは注文したアイスコーヒーを一口飲んで、ストローで少しかき混ぜた。
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