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代金を出そうとレジに向かえば、聖也くんがお支払をしてくれた。
「本当、ありがとう。ごめんなさい」
「謝ることは何もしてないよ。むしろゆっくり話せてよかった」
「私も、嬉しかった」
「これから、どうぞよろしく」
また会える、これからはずっと。
そんなことを思ったら、一瞬足が浮きそうになる。
外へ出ればまだ蒸し暑い。
けれど、海風が少し冷たくて気持ちよかった。
「あ、あれはオリオン座?」
「おぉ、正解」
「じゃぁ、あれは何?」
「あー、あれは」
「明桜っ!」
暮れゆく空を見上げ星座を探していれば、廉が坂をかけ下りて名前を呼ぶ。
「あ、廉」
名前を呼び返せば、隣で聖也くんが不思議そうに首をかしげた。
「彼は?」
「私の幼馴染みで、下宿先の住人」
説明を終えると額の汗を拭いながらやってきた廉が、私の腕を取って後ろへ隠すように聖也くんの目の前に立ちはだかる。
「…あんた、誰」
「こんにちは、初めまして。自分は…、彼女の古くからの友人です」
「…友人」
「廉、この人は」
言いかけた私の言葉など聞く余裕もないようで、珍しく取り乱したように見える彼がそのままこちらの腕を引いて歩き出した。
「あ、ちょっと待って、ねぇ!」
「もう帰るぞ。大谷さんもみんなも心配してる」
「…っ、ごめん。でも、話くらい聞いて」
「聞きたくない。お前の口から他の男のことなんて」
前を歩く廉がどんな顔をしているかなんてわからない。
わからないけれど、その背中から強くてどこか脆い、そんな感情が伝わった。
「…、ねぇ、ずっと思ってたんだけどさ、廉って私のこと」
「明桜っ、俺はまだ手紙持ってるよ。大切にっ!」
問いかけたようとした時、私の耳に聖也くんのまっすぐな言葉が響いた。
驚いて振り返れば、片手を振って微笑む彼が瞳に写り、やっぱり胸が苦しかった。
今の私には頷くことが精一杯で、目の前を歩く廉の気持ちを考えて上げられる余裕なんてなかったのだ。
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