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【第10話】質問攻め
【第10話】質問攻め
志乃も日南が生徒のいる方へ戻ると、皆が取り囲んでガッチリフォールドしてきた。
「日南ちゃん、凄すぎ! え、え、もう凄すぎて言葉が見つからない」
「志乃ちゃん、 あんなに運動神経良かったんだね! もう、バク転のフォームが美しすぎて……」
賞賛の嵐。
続いての波がやってくる。
「籠屋さん、どうやったらあんなふうに動けるんですか」
「朧月、どうやって最後の攻撃避けたんだよ!」
「どうやったらそんなふうに動けるの!」
質問の嵐。
志乃と日南が困っていると、後ろからなーこ先生が志乃と日南を人混みの中から引っこ抜き、生徒の前に立たせた。
「質問は1個までだぞ」
なーこ先生は時々悪い顔をする。
(ちょっとなーこ先生ってドSだよね……)
志乃は声には出さなかったが、顔に出た。その顔を見て日南は思った。
(ちょっとドSとか思ってるんだろなぁ、ちょっと所じゃないよ、超がつくドSだよ……)
そして質問タイムが始まる。
「籠屋さんは、なんであんなに動けるんですか?」
「バッカ、お前、あれは運動神経の問題だよ」
男子がじゃれつく。ニヤと笑って日南は答えた。
「あれは運動神経じゃないよー。始まってからなんか呟いてたでしょ。身体強化術式を発動させたのよ。陰陽師の家系の奴が1番最初に習うのが身体強化術式なんだよね。だからみんなできると言っても過言では無いよ」
その言葉を聞いて男子達は歓喜した。俺らの夢が実際にあったとは、と喜んでいた。男子はいつまで経っても子供だと日南は思った。
「志乃ちゃんはどこであんな動きを学んだのかしら?」
水無瀬アリスがギロと睨んで聞いた。日南はその視線に気付いたが、志乃は気が付かなかった。
「? あんな動き? くるくるって回転するのとか?」
「それだけではなくて、全体的な動きのことを言ってるの」
アリスは少しイラついた様子で言った。志乃はにこと笑って、返答する。
「うーん、いつもお母さんに稽古つけてもらってるんだよね。おかあ……母の方がもっと洗練された動きをするよ。洗練された動きってのは無駄が無くて一撃一撃が重い動きの事ね」
「……え? 志乃ちゃんは自分のお母様に稽古をつけてもらってるの? 習いに行っているのではなくて?」
アリスは驚愕の表情で聞き返した。
「うん、そうだね。あと父も兄たちも一緒に毎日稽古してるよ」
「…………」
そこでアリスは黙ってしまった。
「はい! 最後、日南ちゃんが必殺技みたいなので攻撃してたけど、どうやって全部避けて日南ちゃんに勝ったの?」
次の質問者は萌黄だった。
「あー! それ、私もどうやって逃げたのか気になってたのよ! 私の最終手段のひとつだったのに!」
「まだ、最終手段あるんだ……」
日南も同調して聞いてきた。茉莉は若干引いていた。
「それは簡単! 巨大なこもりちゃんが小さい箱に分裂したでしょ? 私の周りを囲んでいたけど、上に抜け道があったんだよね。普通は抜け出せないけど、私はほら、種族的にあれだから。大きくジャンプして上の結界を足場にして日南ちゃんに飛び付いたわけ。理解した?」
志乃は気付かれないように、言葉をぼやかして言った。でも皆素通りしてくれなかった。萌黄がキョトンとして聞く。
「志乃ちゃんって、何の人外なの?」
すると、俺も知りたい! 私も! という人がわらわらと志乃の元へ群がってきた。志乃は圧に負けて口を開いた。
「一応、鬼なんだ……」
「鬼! 鬼って、あの!?」
「鬼って何なの」
「お前知らないのかよ」
「鬼ってのは人外の中でも上位種に入る人外じゃねえか」
「力の大妖って呼ばれてて、めっちゃ強いって話だぜ」
口々に喋り出す生徒達。日南は心配の眼差しで志乃を見ていた。だって志乃が抱えている悩みを知っているから。そして、男子生徒が期待の眼差しで言う。
「で、何の鬼なんだ?」
志乃は少し間を開けて、もごもごと口を開いた。
「私も、何の鬼なのか分からなくて……」
「変化といてみたら?」
「私達が何の鬼が判断してあげるよ」
「皆で見たら何の鬼か分かるかもしれないしね」
変化を解く。
これは校則に抵触することになる。なーこ先生は「ダメだ」と言ったが、アリスが「ちょっとぐらいいいじゃないですか」と先生を制止した。
「あんた達、志乃の事なんにも知らないで勝手な事を言い出すな!」
日南はキレる寸前だった。
「良いの、日南ちゃん。私ね、まだ覚醒してないの。だから変化を解くのは出来ないんだ。これが今の本当の姿だからね」
志乃は苦笑いをしていた。その言葉を聞いた生徒達は一気に志乃に対して申し訳ないという素振りを見せた。
「……あ、そうなんだね。ごめんな」
「言いたくないこと言わせちゃったよな」
「そりゃ言いたくないことだってあるよね……」
しかし、一部の生徒は志乃に聞こえない声で嘲笑った。
「この歳でまだ覚醒してないなんて、人外じゃないんじゃない?」
「何の鬼か分からないなんて、鬼ってのも嘘なんだろ」
「あんなブス、鬼なわけないじゃん」
日南の堪忍袋の緒は切れた。しかし、志乃は自分の元を離れようとする日南を、震えた手で制止した。それを見ていた志乃の親友達は志乃を皆で抱き締めた。優しく包み込むように。
その様子を見ていたアリスはニヤリと微笑んだ。
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