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【第12話】親友でライバル
7月――夏も本番。日本は蒸し暑いことで有名である。そしてその者は帰ってきた。志乃の幼稚園からの親友で唯一のライバル(自称)のあの女が……
「はぁ、久しぶりの日本は暑っついですわね? は? まるでサウナのよう!」
日傘をさして、彼女は高等部練のメインストリートを行く。
***
「今日は転入生……いや、外国から帰ってきたやつを紹介するぞ。入ってこい」
ガララとドアが開き、彼女が入ってきた。
瑠璃色のふわふわの長い髪。前髪をポンパドールにしていて、顔がよく見える。少しつり上がった大きな黄色の瞳の気の強そうな女の子。
「初めましての方は初めまして。そして……」
バッと扇子を広げ、口元に持ってくる。
「皆様方! わたくし、藍色院鏡華が帰ってきましたわよー! オーホッホッホッホッ! さあ、久々の日本の夏に当てられたわたくしを労りなさい!」
小中からいる生徒は彼女の帰還に大はしゃぎした。もちろん高入生はドン引きである。
藍色院――この家は黒狐の系譜の藍色の妖狐の家系である。星を読み、星座の運勢を読み解く。その力を利用し、莫大な財を築き上げてきた。藍色院は天体観測を得意とし、天体に関しての知識欲が強く、外国へ新たな知識を求めて留学する。鏡華もその1人だった。アメリカに2年留学していたのだ。
志乃も鏡華が帰ってきてくれたことがとても嬉しかった反面、連絡も何も無かったのでびっくりしていた。
「私、水無瀬アリスです! このクラスの学級委員長をやっています。分からないことが有る時は私になんでも相談してね」
笑顔のアリスは鏡華の前に行き、握手を求めた。しかし、鏡華はアリスの事をじっと見ると、「そう」とだけ言って素通りした。そして志乃の目の前にまで行く。
「志乃! わたくしが帰ってきましたわよ! わたくしが居ない間はさぞ寂しかったでしょう。そして、どうですこのドッキリはっ!」
鏡華はアリスに見せた冷たい表情とは真逆に、志乃に満面の笑みを向けた。
「ドッキリだったの!? めちゃくちゃびっくりしたよ! 鏡華ちゃんが居ない間は……うん、寂しかった……」
志乃が少し影を落とした表情になると、鏡華は扇子でくいと志乃の顎を上げた。
「わたくしが目の前にいるのに暗い表情を見せるなんて、いけませんわよ。貴方は私の美しさと気高さ、博識さに唯一全てにおいて張り合える人ですもの。わたくしの生涯のライバルとして自信を持ちなさい!」
鏡華はそう言い放つと、志乃の隣の席に座った。
なーこ先生は鏡華が座るのを見届けると、話を始めた。
「藍色院、話は終わったか? まだ話したいこともあると思うが、それは休み時間にやってくれ。ホームルーム始めるぞぉー」
そして休み時間の開始を告げるチャイムが鳴った。
「鏡華ちゃん、どこ行ってたんだっけ? アメリカだっけ? どうだった異国の地はよぉ」
「ふふ、まあまあでしたわ。でも日本の方が好きですわね、暑っついけど」
「鏡華ちゃんいるとなんかクラスの空気が変わるよな! もちろんいい意味で」
「ま! いい意味でとは何ですの! いい意味しかありませんわ! まるでわたくしが輪を取り乱してるみたいな言い方……あんまりですわ」
鏡華がいるとクラスのトーンが三段階も上がった気がした。しかし、鏡華はあることに気がつく。
「高等部からの入学生の方々は全然わたくしに話しかけに来ませんわね。何かあったのかしら?」
これには皆口を噤んだが、萌黄が話し出した。
「私、高入生の宮下萌黄って言います。仲良くしてください! いつもは志乃ちゃんといっしょに行動しています。……で実はですね、人外への差別意識とか、志乃ちゃんへの嫌がらせとかで、ごたごたしてまして……」
鏡華は志乃というワードが出てきた瞬間、バンと立ち上がって声を張り上げて言った。
「人外への差別意識は、どの世界でも有りますから置いといて……志乃への嫌がらせ? はぁ? わたくしの、わたくしのたった1人のライバルである志乃の?」
「……っ! 鏡華ちゃん!」
志乃はすぐに気がついた。鏡華から妖気が溢れていたことに。周りの耐性のない人間達はその何なのか分からない力に圧倒されて腰を抜かせた。
鏡華の姿が変化していた。怒りで変化を解いてしまっていたのだ。狐耳に尻尾。黄色の瞳は金色にらんらんと輝く。
「誰がぁ、わたくしの、わたくしだけの志乃に手を出したぁ!」
ビリビリと教室が震えた。鏡華は妖気を撒き散らして、怒る。
――パァン!
日南が鏡華の頬を思いっきりひっぱたいていた。
「お前だけの志乃じゃねえよ! 私のだぁ!」
志乃を含め教室の皆は妖気の圧力よりも日南の発言の方にもっと腰を抜かしてしまった。怒るのそっち? 妖気放ってることよりもそっち? 皆全会一致で思った。そこに参戦する強者がもう2人いた。萌黄といつの間にかクラスにいた茉莉だった。
「いやいや、志乃ちゃんは私のものですよ?」
「誰のものでも無いですよね?」
日南と萌黄、茉莉が睨み合う。鏡華は人間の姿に戻っていた。そしてわなわなしながら言う。
「叩きましたわね? わたくし、自分の親にもぶたれた事ないのに! それと、志乃はわたくしのものですわ」
「いやいや、誰のものでもないよ? 萌黄ちゃんの言う通りだよ」
志乃はやっとの事でつっこんだ。
「「「志乃は黙ってて!」」」
志乃は3人の圧に負けた。
***
水無瀬アリスは握手を拒まれたことに対してイラついていた。
(藍色院……私の事を冷たくあしらって、何様のつもりかしら。私の地位に勝てるものなんていないのに、馬鹿ね)
そして、鏡華が妖気を振り撒いて、怒り狂っている時、アリスは恐怖に震えた。取り巻きたちも、歯をガチガチ言わせて震えている。
「ねぇ、もうやめようよ……朧月いじめんの」
「私も、賛成……このままじゃ殺される」
「……何を弱気になっているの?」
アリスは恐怖よりもこんな事に弱気になっている取り巻きを見て激怒した。
「あなた達は私の言うことを聞けばいいの! まあ、聞けないって言うのなら家への援助を断ち切っても良いのよ。それか、朧月志乃と同じ目にあってもらうわ」
「……わかった」
「やるよ」
アリスはたいして美しくも無いくせに私の取り巻きになっている女子には興味がなかった。この女子たちは家が裕福でなく、アリスの家、いや、アリスの母が経営する会社が援助していた。アリスのご機嫌とり要因なのだ。
アリスは妖の王の花嫁になるのを、16歳になるのを楽しみにしていた。
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