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【間話】ずっと探している
その頃、天皇家の皇居のある一室で男が2人、談笑していた。春月天皇と皇鬼綾斗である。皇鬼は全身真っ黒、春月はホワイトブロンドの髪に桃色の瞳の優しそうな青年である。
「で、そろそろ本題に入ってくれ。なんで俺を呼び出した?」
春月は楽しそうに話をしていたが、皇鬼はそれを遮った。春月はキョトンとした顔をして、そういえばと言い出す。
「そうそう、愛しの朧姫は見つかったの?」
春月はニヤリと悪戯に笑って見せた。皇鬼は嫌そうな顔をする。
「その顔はまだ見つかっていないんだねー。若輩者の僕が言えることじゃないけど、君も早く身を固めるべきだよ?」
「お前もまだ結婚してないだろ」
「愛しい婚約者はいるよ?」
春月はガサゴソと机の中を漁り出すと、何かを取りだした。春月の婚約者である文音の写真であった。
「ほら、見てよこの可愛い写真! 萌えるよねー!」
「咲羽、五月蝿いぞ」
皇鬼はうんざりした顔をした。
春月天皇の名前は咲羽という。咲羽と呼ぶことを許されているのは春月の友達とその1人である皇鬼綾斗だけだった。文音というのは春月の学生時代から付き合っていた女性の事である。琴吹文音という。
春月も実は天明学園の出身なのだ。天明学園は皇鬼が作った学校だからだ。かく言う本人は今は経営を手放しているが。
「僕の妹とかどうよ?」
「ムリ」
「妹の桃子は綾斗の事めっちゃ好きって言ってたけど」
「尚更嫌だ」
皇鬼は機嫌が悪そうに悪態をつく。
「じゃあ、問い方を変えよう。見つかりそうなの? 目ぼしい人とかいる?」
「…………伊万里が、朧姫の容姿に似た女を天明学園で見つけたと言っていた」
「え? 良かったじゃん!」
「でも、それで勝手に期待して、会えば全然違うかったことしかない」
「不貞腐れんなよー」
春月はぶすっと膨れた皇鬼の頬をぷすと押す。コンコンとドアを叩く音がした。
「うっそ、もうそんな時間? まじ?」
「まじですね」
扉の向こうから声がした。宮内庁の人間であり、春月の側近の琴吹風音である。琴吹文音の兄である。
「うーん、もっと話したかったんだけど、ここで終了だぁ。じゃあね綾斗ー」
そう言って迎えに来た風音と共に執務室に向かった。風音はペコリとお辞儀をして春月の後ろについて行った。
皇鬼しかいない部屋。皇鬼は誰もいない部屋で大きな鏡に向かって口を開いた。
「雲行、いるか? 人界の別邸へ帰る」
そういうと、鏡に波紋が広がった。そのまま鏡の中に入った。
『おかえり』
鏡を抜ければ、大きな鏡を持っている翡翠色の髪を隠すようにフードを被った男が待っていた。彼の名前は雲行。雲外鏡の化身である。彼の本体は彼が持っている鏡。鏡には『おかえり』の文字がでていた。
「おかえりー! どうだった? 咲羽とのお喋りは」
猫耳の男が駆け寄る。彼の名前は伊万里。黒猫の猫又で、赤と黄色のオッドアイだ。
「別に、また婚約者がいかに可愛いかの話をされた」
明らかに機嫌の悪そうな皇鬼。そんなことは気にせずに話しかける伊万里。
「明らかに当てつけじゃん。可哀想ー、皇鬼」
「五月蝿い、俺は部屋に篭もる」
そう言うと、大正を彷彿とさせる洋館の階段を上り、自分の寝室に向かった。
部屋に戻ると、優しく待ち構えるアメジストのような紫色の宝石の耳飾りがあった。丁寧にガラスの容器の中に入っている。皇鬼はそっとその耳飾りを取りだし、優しく撫でた。
「ただいま、朧姫」
誰にも見せない優しい笑顔で話しかける。
「ねぇ、君はいつになったら俺の元に現れてくれるの?」
これ以上にない悲しい顔。
「桜の下で待ってるんでしょ?」
「君が来てくれないから、俺はずっと君を探してるんだ」
――君の事をずっとずっと、長い間、探してるんだ。会いたいよ、俺だけの朧姫……
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