【第14話】焔朝

1/1
前へ
/34ページ
次へ

【第14話】焔朝

 東雲が少し呆れた顔で話し始める。 「皆も驚いたと思いますが、あの方は正真正銘の天皇陛下です。普段はああ言うノリなので気にしないで下さい。まずは焔朝と妖の関係性について説明をしましょう」  春月のニコニコ笑顔の映像から日本建築の大きな館の写真が映し出される。 「これは焔朝の庁舎です。焔朝は偉大なる陰陽師、安倍晴明様がお作りになった組織で、平安時代から現代までおよそ千年以上の月日が経っている世界でも類を見ない組織のひとつです」  そしてまた画面が変わる。百鬼夜行の日本画だった。 「焔朝とは別に陰陽寮という組織がありましたが、こちらは占い、天文、時、歴が専門であり、焔朝とは全く違う組織でした。ちなみに陰陽寮は飛鳥時代に天武天皇により創設され、明治時代に廃止されています。その後すぐに陰陽寮の代わりとなる組織、陰陽連ができました。陰陽連は全国の陰陽師たちを束ねる組織となっています。さて、この絵は何でしょうか。そう、皆さんもこの有名な絵は見たことがあると思います。『天下百鬼夜行図』という絵で、平安時代に描かれたものです。作者は不明ですが、一説には当時の百鬼夜行に参加していた妖ではないかとされています」  妖の黄金時代というタイトルの画面に切り替わる。 「平安時代は妖の黄金時代と呼ばれるほど、妖達の活動が盛んでした。それはもう、人々の生活を脅かすほどに」  次々と出てくる大妖怪たちの名前。生徒たちはドキドキした。だって普通の学校ならこんなことは習わないから。 「大江山の酒呑童子、鞍馬山の大天狗、鵺、餓者髑髏などなど、これらの妖達は人間に危害を加えました。そこで、当時の天皇陛下が妖達を恐れ、安倍晴明様に討伐の命をだしました。その時に作られたのが焔朝です。焔朝は陰陽寮とは違い、妖達を討伐するためだけに作られました。所謂、戦闘専門の部隊ですね」  続いて映し出されたのは実際に討伐された妖の一覧だった。年表順に表されている。 「これが創設時から現代に至るまでの討伐記録です。こうして見ると、細すぎて分かりませんね。江戸時代までは討伐が多く、現代にかけてかなり少なくなっています。これは江戸時代の開国の時が境目となっています。これまでの焔朝は妖を討伐するだけの組織でした。しかし、開国時に妖が表舞台に顔を表し、一般の人々に認知されてしまってからはそうはいかなくなりました。そこからです、焔朝の方針が変わったのは。焔朝は妖との良好な関係を続けるために人と妖の架け橋となりました」  そして、現代に至るまでの活動が分かりやすく表示される。 「妖の重要人物の警備、妖と協力して行う虚一斉除去の儀、日本の東西南北、四神信仰の力を使った日本全土を守る強力な結界の作成、人間と妖が出席する行事の運営、妖関係の事件に関しての警察と共同作業などですね。日本全土を守る結界は世界から羨ましがられるほどの強度があります」  一段落したのか、東雲は一息ついた。志乃の隣で日南はうんざりした顔をしていた。 「どうしたの?」 「あの人、いつもはあんな口調じゃないから気持ち悪くて……」 「……な、なるほどね」  志乃はそれ以上聞くのはやめた。  東雲が話を再開する。 「なんでも、最近の若者は人外の事で嫌なことがあったらすぐに焔朝の名前を使うらしいですね。焔朝の陰陽師に討伐してもらうぞと。焔朝が妖を討伐していたのは昔の事であり、今は人間と人外の関係を取り持つ重要な役割を担っています。焔朝は一部の人外たちに恐れられています。私達ははそれを無くしたいと考えています。人間と人外が共に差別のない、両者共に日常生活に欠かせない存在になることを願って、私達は活動しています」  東雲の演説に力が入る。 「今や人外は人間に必要不可欠な存在です。それは人外も例外ではありません。人外も人間が必要なのです。人外の事を怖がらないで、人間のことを怖がらないで。彼らの事を知ってあげてください。人外は人外なりに悩みを抱えています。人間も悩みを抱えることはあるでしょう? それと同じです。人外は時に人間に悪さをすることがあります。でも人間も同じです。そこを理解してください。これで私の話は終わりです」  パチパチパチと拍手の音が講堂に響いた。 *** 「最後めっちゃ話に力入ってたよね」  志乃達は講堂を出て、教室に向かっていた。   「というか、日南ちゃん、あの東雲さんって人知り合いだったの?」 「知り合いじゃないけど、こっちでは有名な人でねぇ。あの人ねぇ、東の東雲って言われてるんだけど、日本を守る結界には軸があってね、その四柱のうち東を司る青龍を祀る家系なのよ」 「それはまあ、壮大な話ですね……」 「まあ、わたくし達が知ったことではありませんわ」 「でも、面白かったよね!」 「「「面白かった(ですわ)!」」」  志乃達はキャッキャウフフで教室に戻って行った。   ***  その日、志乃は久しぶりに夢を見た。  誰かの肩に乗って、綺麗な枝垂れ桜を見ている夢。  その夢はまるでこれから起きることを示しているかのように感じた。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加