【第15話】プールに行こう

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【第15話】プールに行こう

 その日、志乃は必死に夏休みの宿題をこなしていた。まだ焦る時期では無いが、早くに終わらせるとあとが楽だからである。  そして、そして、終わったのだ。宿題が。 「……終わったぁ! 疲れたー! でも快感!」  志乃は叫んだ。ここからが本当の夏休みだ。しかも、8月は蒼真と紅賀の誕生日もある。  志乃は予定を立てるのが楽しみで仕方がなかった。 「志乃ースイカ切ったから、食べようよー」  下の階から蒼真の声が聞こえた。志乃は急いで階段を下りる。蒼真に宿題終了のお知らせを言う。 「え、志乃もう宿題終わったの? まだ、1週間も経ってないけど!」  蒼真が驚きの表情でスイカを頬張った。志乃もシャクシャクと音を立ててスイカを食べる。 「……すごいな」  紅賀は感心しているのか、スイカを食べる口が止まっていた。 「蒼真なんて、宿題、いつも遅れるのにな」 「……お前は一言余計」 「事実だろ」 「喧嘩はダメだよ?」  志乃は兄達がはしゃぐ姿を見るのが好きだった。そこで突然、誰かのスマホが鳴りだす。 「……あ、俺だ」  紅賀のだった。 「もしもし、もうそんな時間か」 「あ、撮影の時間か!」 「志乃、出かける。鍵は閉めとけよ」  蒼真と紅賀はモデルの仕事をしている。水着の撮影だろうと志乃は思った。 「いーなぁ、私もプールとか行きたいなぁ」 「友達誘って行ってくればいいじゃん」 「……おぉ、その手があった」 「変な人には着いていくなよ」 「紅兄、私のこと何歳だと思ってるの? もうすぐ16歳だよ? 大丈夫!」 「ふーん、まあ、行ってくる」    蒼真と紅賀はいそいそと家を出ていった。  志乃は兄達を見送ると、自分もいそいそと親友達にグループ通話をかけた。 「もしもし!」 『おぉ、どうしたん』 「突然で悪いけど、今日プールいかない?」 『いいですね! プール!』 『わたくしも行きますわー』 『友達とプールでキャッキャウフフ……ふふふ』 「日南ちゃんはどう?」 『あー、ごめんね志乃、私、今日は昼から予定入ってて無理だわ、みんなで楽しんでこい!』  そう言うと日南はグループ通話から抜けていった。 『どこのプールにする? ああ、学校行くとこをもうちょい奥に行ったところにある大きな室内プールはどう?』 『わたくしの家のプールはどうですの?』 『いやいや、鏡華ちゃんの家のプールは気が引けるわ』 「……よっし、学校の奥にある方にしよう! お昼ご飯食べてから12時に学校前で待ち合わせね!」  今は10時。志乃は水着類、タオル類をカバンにいれ、行く準備を整える。そして、昼ごはんをいそいそと食べた。 *** 「お待たせー!」  志乃が校門前に着くと、大きな車が止まっていた。いつもの鏡華のお付きの者の執事さんがいた。車の窓か開き、鏡華の声が聞こえる。 「言い出しっぺが遅いですわぁ、もう皆さん全員乗ってますわよ」 「うへへ、ごめんごめん」  志乃は執事の人にドアを開けてもらい、乗り込んだ。 「わたくし、暑いのが無理だったから、藍乃に着いてきてもらいましたわ」  鏡華がそういうと、藍乃さんは運転席からペコリと頭を下げた。 「執事付き……」 「やっぱりお嬢様だぁ」  萌黄と茉莉は藍乃さんを見るのが初めてだったので、鏡華がお嬢様であることを再確認した。 「藍乃さん、お久しぶりです」  志乃は藍乃のことを知っていた。鏡華とは幼稚園の頃からの親友なので、藍乃のこともよく知っていた。  車が動く。  志乃たちは文字通りキャッキャウフフして車に揺られた。 ***  プールに着くと、混んでいた。  鏡華は車から降りると、藍乃に「迎えの時間は電話するわ」と伝えた。 「うわー、混んでるねぇ」 「だからわたくしの家のプールが良いと言ったのに」 「それは断固拒否」  萌黄の絶対拒否には皆が笑った。    志乃達は水着に着替えた。志乃は上は白、下はピンクの花柄のハイネックビキニ、萌黄は黄色いワンピース、茉莉は上下共には黒の所々に花柄がついているタンクトップビキニ、鏡華は青いオフショルダービキニを着ていた。  鏡華が志乃のことをまじまじと見て、言う。 「その眼鏡、似合ってませんわねぇー。今日ぐらいは外したらどうです?」 「うーん、でも目立つ? らしいからなあ……」 「なんだか分からないですが、私達が守りますよ!」 「志乃ちゃんのお顔は綺麗ですからねぇー」 「え、茉莉ちゃん、志乃ちゃんの素顔見たの!?」 「うん」 「わたくしも素顔知ってますわよ? 日南も」 「えー! 私だけ知らない! ずるい!」  志乃抜きで進む話。志乃の眼鏡をとる事が決定した。 「目立つのヤダー」 「わたくし達が守って差し上げるので安心して外してくんなまし?」 「うー」    志乃が眼鏡を外す。  今までぼやけていた表情がはっきりとする。瞳はアメジストのような透き通った紫。まつ毛は長く、目を伏せればまつ毛の陰が頬に落ちる。  萌黄は志乃がこの世のものとは思えないくらい美しいと思った。   「綺麗……」 「志乃、前にも増して美しさに磨きがかかりましたねえ?」 「はぁ、やっぱり美しいですぅ」 「……恥ずかしい! やっぱ眼鏡かける!」  眼鏡をかけようとする志乃から眼鏡を没収する。そして、そのままプールに入った。
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