【第17話】千年桜

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【第17話】千年桜

「楽しくなかった? あ、もしかして、さっきのチャラリラチンピラのせい!?」 「……もう怒りました。殺しますわ」 「違う違う! 萌黄ちゃんの話聞いてたら、千年桜見たくなっちゃって……」 「なんだ、そっちかぁ、良かったぁ!」  志乃の言い分を聞いて、殺気立っていた皆が落ち着いた。 「よっし、じゃあ行こう!」  志乃達はシャワーを浴びて、髪の毛を乾かし、服に着替えた。そして、プール施設の外に出た。 「暑っつ!」 「なんじゃこりゃ、暑っつ!」 「まぁー、暑っついですわねぇ、段々腹が立ってきましたわ」  周りの人も暑そうにしている。灼熱地獄とはこういう事か、とその場にいる全員が思った。 「これは少しキツイですわね、公園まで行くのは」 「日を改めて行くのはどう?」 「私は行くよ、また後日みんなで公園行こうよ! みんなは帰ってくれて全然良いからね?」 「でも、今日行ったら熱中症で倒れるよ?」 「大丈夫、大丈夫!」  志乃の言い分に3人は折れた。 「じゃあね! また遊ぼうね!」  志乃はそう言うと、地図アプリを見ながら公園の方に行ってしまった。だらだらと汗が滴る。  途中、コンビニがあった。 「うーん、暑いから2個食べちゃお」  そう言って、アイスを2個買って、ひとつは食べながら公園に向かった。  公園にはすぐに着いた。 『綾月公園』 「ほんとだ、綾月公園って書いてる」  志乃は何処に枝垂れ桜があるか分からなかったが、公園を見ればすぐにわかった。公園を包み込むような大きな桜。枝は伸びきり、でも、丁寧に剪定されている感じがした。  志乃は公園に吸い込まれるように足を踏み入れた。涼しい風が志乃の頬を掠める。何故だか分からないが、公園の敷地内は外と比べ1、2度体感温度が低い気がした。  公園の中はこじんまりとした感じなのかと思ったが、意外と広く、遊具などは全くなく、子供が遊びに来るような公園では無いのが見て分かった。  萌黄の話のように、永遠の愛を誓うためかカップルはチラホラ居た。しかし、全体的に賑わっているようには見えなかった。所々にベンチが設置されていた。    公園は真ん中に千年桜があり、それを囲うように桃の木が植えられている。千年桜には注連縄がしてあり、いかにも御神木のように見えた。木には直接触れられないように柵がしてある。  木は全体的に枯れており、花が咲くような状態では無かった。でも、志乃はこの千年桜はまだ枯れていないと感じていた。  何処と無く、懐かしい雰囲気の公園。志乃の第一印象はそれだった。幼い頃にも行ったことがないのに、懐かしく、恋しくも感じる。  千年桜を見つめる。志乃は満開の千年桜を見た事があるような不思議な感覚を覚えた。   「ん……君は、誰を待っているの? その人が来たら元気になるの?」  志乃はほとんど誰もいない公園で千年桜に向かってそう呟いた。返事が返ってくるはずも無く、ただ、風が凪ぐ。    ふと目をそらすと千年桜の柵のすぐ傍に駒札があった。 『千年桜――そこなるは約束の地。千年桜の下での逢瀬の契り。皇鬼様と朧姫様の幾年の約束の地であり、愛を誓い合った聖なる土地』 「萌黄ちゃんが言ってたのと同じだ! ん?」  そこには続きがあった。 『彼の者は貴方様を待っている。長い年月、たとえ天変地異が起きようと、貴方様が彼の者を忘れ去られようとも、彼の者は貴方様を思い、恋願い、約束を果たしてくれるのを待っている。ずっと、ずっと……』    持っていたアイスが垂れる。  ポタリ、ポタリ、と。  それは時間の経過を表していた。    どのくらいの時間が経っただろう。  志乃の足元はアイスの形ができていた。もちろん持っていたアイスも原型を保てていない。  志乃は急いで溶けたアイスを頬張った。アイスのほんのり冷たく、甘い味は志乃の思考停止状態の頭に淡い刺激を与えた。  手に着いたベトベトのアイスを洗い流しに行こうと、顔を上げると、男の子がいた。
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