【第18話】不思議な少年

1/1
前へ
/34ページ
次へ

【第18話】不思議な少年

 その男の子は異質だった。肌は日焼けを知らないように真っ白だったが、その他は全身真っ黒だった。鴉の羽のような髪、ブラックオパールのような瞳。今の時代、着物を着て遊んでいる子供はいないに等しい。なのに、少年は黒い着物を着ていた。  志乃は一瞬でその子が人外だとわかった。声を掛けようとすると、少年が小さな声で呟いたのだ。 「……見つけた」  志乃には何を見つけたのか分からなかった。志乃が不思議そうな顔をすると、少年はぽろぽろと綺麗な涙を零した。志乃は焦る。 「あわわ、あわわ、どうしよ! ……あ、これ、あげるから!」  そう言って少年にアイスの入った袋を半ば強引に手渡すと、急いで手を洗いに行った。  少年は不思議そうな顔をしていた。  志乃は戻ってくると、やらかしてしまったと言う顔をした。 「ご、ごめんね、知らない人から貰う食べ物なんて嫌だよね……!」  袋を渡すように言うと、少年はそれを拒んだ。 「……ほしいの? 大丈夫! 変な物なんて入ってないからね」    少年は袋の中のアイスを取りだして、袋を開けた。すると入っていたのは2人で食べる系のアイスだった。 「恥ずかしい……間違って買ってしまった……」  志乃は顔を隠して悶えた。その様子を見て少年はくすと笑い、志乃に話しかけた。 「一緒に食べようよ、お姉さん」 ***  2人は千年桜がよく見えるベンチに座って、アイスを食べた。少し溶けていたが、甘く冷たかった。  志乃はぺろぺろとアイスを食べながらチラリと少年の横顔を見る。それに少年は直ぐに気付き、2人の視線は絡み合った。 (子供なのにどこか大人びていて、不思議な男の子。この子は一体何者なんだろう?)  志乃は考えていることが顔に出やすいタイプである。志乃の顔を見て、少年は口を開いた。 「お、僕の事、気になるの?」 「……へぇっ!」  志乃は心を読まれた気がして、素っ頓狂な声を上げた。少年はふふと嬉しそうに笑った。 「ふふ、お姉さんは面白いな。そうだなぁ、僕の事は綾って呼んでよ。お姉さんの名前は?」 「志乃……朧月志乃です」 「志乃、志乃ねぇ……綺麗な名前だ。あ、アイス食べないと溶けるよ?」 「わ、ほんとだ」  少年、綾は志乃の半分溶けているアイスを見て指摘した。志乃の口では到底溶ける速さに追い付けず、見かねた綾は志乃のてろりと零れそうなアイスを食んだ。    ドキと震える心臓。志乃は不覚にも綾が自分のアイスを食べる姿を見て心が揺らいだ。    長いまつ毛。  頬に影が落ちる。  志乃は自分と綾の周りだけ蝉の声が聞こえなくなった気がした。  そもそも変なのだ。公園の外からは蝉の声が忙しなく聞こえるのに、公園内の蝉は静かな鳴き声だった。 「志乃?」  綾に呼ばれて志乃の意識は引き戻された。 「どうかした?」 「……ううん、大丈夫」  志乃は残りのアイスを食べ終えた。その間、綾は幸せそうな顔で志乃の顔を眺めていた。 「志乃、僕のことどう思う?」  突然の質問に驚く志乃。 「……子供なのに、大人っぽくて、うーん、小さな子供に言うことじゃないけど、ちょっとドキドキしたかも」 「……そっかぁ、そっか。ふふ、嬉しいな」  志乃の率直な感想に綾は満足したように、ベンチから降りた。 「志乃、僕は帰るね。またここで会おう、約束だよ?」  綾は志乃が瞬きをすると、今まで居なかったのように姿を消した。でも、綾と一緒に食べたアイスの袋を見て、確かに今まで一緒に居たということを感じた。  綾を見て、志乃はなんだか懐かしく感じていた。 「……なんか、不思議な子だったな。あ、もう結構いい時間! 帰ろ」  そして志乃は夕日に照らされた道を歩いて帰った。     ***  その日の夜、また、夢を見た。  誰かのことを膝枕している夢。とても愛おしい()()()を思いながら、頭を撫でるととても幸せな気持ちになった。      志乃は綾のことを日南達に話した。  でも、何度か友達と綾月公園に足を運んだが、綾には会えなかった。    夏休みが終わる。  新学期が始まる。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加