【第21話】私こそが

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【第21話】私こそが

 11月の文化祭も無事成功し、あっという間に冬になっていた。 「うー、寒」  志乃はマフラーをぐるぐる巻きにし、完全防備で学校に向かっていた。もちろん、日南、蒼真、紅賀も一緒だった。 「そういえば、アリスちゃん、最近全然学校に来てないよね。本当にどうしたんだろ」  志乃の言葉にその場の全員が凍った。 「いや、あいつのことなんか放っておこうよ!」 「気にするだけ無駄だよー」 「気にするに値しない」 「?」  蒼真、紅賀は日南から水無瀬アリスという人物がどういう者なのか知っていた。もちろん、志乃のことを虐めていることも。本人の自覚が無いことも。  志乃が頭に沢山はてなマークをつけていると、学校に着いてしまった。 「そいつ、気をつけろよ」 「分かってる」  紅賀と日南はコソコソと会話して、それぞれ教室に向かった。  教室の方から騒がしい声がした。志乃と日南は急いで教室に向かう。すると違うクラスの人も集まっており、お祭り騒ぎのようだった。人集りの中心部にアリスがいた。 「あ、おはよ! 志乃ちゃん!」 「おはようございます、志乃」 「おはよう! 志乃ちゃん」  萌黄と鏡華と茉莉だった。志乃と日南はこの状況のことを聞いた。 「何があったの?」 「わたくし達もよく分からないのけれど、水無瀬さんが朧姫に選ばれたとか」 「えー! そうだったんですか!? 私はこのお祭り騒ぎに便乗してB組に来ただけなんですけど!」 「茉莉ちゃん……」  茉莉は時々おかしなことを言う。萌黄はなかなか見ない呆れ顔である。 「朧姫に()()()()?」  1番に反応したのは意外にも志乃だった。その言葉に回答する萌黄。 「前に古山先生が朧の会の話してたでしょ? 水無瀬さんはその朧の会の選考に全て合格したの。だから晴れて朧姫になったって事」 「でも、朧姫って人間が選べる存在じゃ無いでしょ? 皇鬼様だけが見つけられるんでしょ?」  萌黄は暗い顔をする。そして、少し間が空いて口を開いた。 「政府の人にとっての朧姫は本当の朧姫では無いの。朧姫を選ぶ時に見ている項目はね、主に容姿、所作、財力って言われてるの。政府は朧姫をも超える者を探しているの。そうすることで皇鬼様に恩を売り、いつか返して貰おうって考えてる」  萌黄の言葉に皆が驚愕する。 「萌黄は……何者なんですの?」  鏡華が恐る恐る聞く。萌黄はキョトンとした顔をしていたが、すぐに笑顔になった。 「私は普通の人間だよー。私のお父さんがね民俗学者兼国会議員なの。宮下史郎(みやしたしろう)って人なんだけど……」 「知ってます! 人外で構成された鬼月の会の唯一の人間の方ですね!」 「それは知っているのは納得ですわ……」 「皇鬼様は怒らないのかな……」 「それは私も思うよ」  志乃達が教室の前の廊下でおしゃべりしていると、アリスがどんどんこちらに近づいてくるのが見えた。 「あら、おはよう、志乃ちゃん」 「あ、おは……」 「志乃ちゃんに言いたいことがあるの」  志乃の返事を遮って話すアリス。日南達は警戒心を露にした。 「私ね、朧姫に選ばれたの」 「……良かったね」 「それだけ? 羨ましいとか思わないの?」 「いや、羨ましくは無いかな」 「……なんで、なんで、なんでよ! ちょっとぐらいは羨ましがりなさいよ! 朧姫なのよ! 朧姫! それに私が選ばれたの!」 「でもね、それって皇鬼様に選ばれた訳では無いんでしょ」  志乃の言葉にアリスが絶句する。そして、顔を真っ赤にしてブチ切れた。 「うるさいうるさい! 私が、私こそが朧姫なの! 私だけが皇鬼様の隣にいることを許されたの! あんたみたいなブスが選ばれることなんて世界がひっくり返っても絶対に無いわ!」  アリスはそう言うと、教室を飛び出ていった。日南は心配の眼差しで志乃を見た。志乃は遠い目をしていた。そして呟いた。 「皇鬼様は貴方のような人は絶対に選ばないわ」 「志乃……?」 「…………ん? 何してたんだっけ」  ぼんやりしていた志乃は日南の声で我に返った。   「おわ! 日南ちゃん?」  日南は志乃に抱きついた。日南には先程の志乃は別人のように見えた。それが怖かったのだ。  志乃には何故抱きついてきたのかよく分からなかったが、日南が小刻みに震えているのだけは分かった。抱きつき返す。 「ふふ、なんだか分からないけど、大丈夫だよ……日南ちゃん」
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