【第5話】本当の友達

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【第5話】本当の友達

 授業が終わり、放課後――  志乃はるんるんで廊下を歩いていた。何故るんるんなのかと言うと、日南が自分のことを大切に思ってくれていることが再確認出来たからだ。  ふと、廊下の端の見えないところで罵倒が聞こえた。 「おまえ、人外だろ。人外のくせに可愛く化けられないのかよ」 「人外は美しさだけが取り柄なのになー可哀想」 「胸だけやたらめったらでかくてよ」  男のゲスい笑い声が聞こえた。  続けて女の声も聞こえる。 「どうせ本当の姿なんて、醜すぎて見せられないんでしょ」 「醜さが溢れ出て、綺麗に化けられないなんて、かわいそー」 「あいつらの相手してあげなよ、体だけは立派なんだから」  キャハハと汚く笑う。  志乃は聞いてられないなと思い、その場に突っ込んだ。 「何してるんですか、先生達呼びますよ」  志乃が来たことに一瞬驚いていたが、次は志乃の事を罵倒し始めた。 「うわ、こいつのお仲間かよ」 「芋臭ーい」 「なんだよ、お前も相手して欲しいのかよ」  そう言って1人の男子が志乃の胸を触ろうとしたが、志乃はその男を投げ飛ばし、胸ぐらを掴んだ。 「人外を舐めるのは程々にしときなよ? 人間なんかより、情が深いの私たち。仲間が酷い目にあっていたら、百倍返しでお返しするの」  志乃は笑顔で無意識に妖気と殺気を振り撒いていた。それに圧倒されたのか連中は一心不乱に廊下を走って逃げて行った。  志乃はふぅと一息付き、罵倒されていた人外の女子生徒の方を向いた。サーモンピンク色の髪の毛を長く伸ばし、目は見えない。その子は小さく蹲って震えていた。 「あ……ご、ごめんね。私怖かったよね、もう行くから安心して! 次あんなこと言われたら撃退するんだぞ」  そう言って志乃が行こうとすると、彼女はガシと志乃の手を握ったのだ。志乃が驚いていると、やっとの事で彼女が口を開いた。 「……あ、ありがとうございます……」  消え入りそうな声でそう言うと、泣き出してしまった。 「……ヒック、入学してからずっと虐められてて、でも誰も止めてくれなくて、あの人たち、財閥の人達みたいだから……だから、あなたが助けてくれた時はすごく嬉しかったの……ふっ、ふぇ」  志乃は場所を移動して中庭のベンチに彼女を座らせた。  彼女は泣きながらもことの発端を全て説明してくれた。 「ふむ、なるほどな、外見だけでそんな言われんのか。あ、そうだ、名前は? 私1年B組の朧月志乃!」 「……あ、1年C組の花香茉莉(はなかまつり)です……」  志乃は茉莉をまじまじと見ると、ばっと前髪を上げた。 「なんだ! めちゃくちゃ可愛いじゃん! あの人達は見る目が無いね!」  くりくりとした大きなエメラルドグリーンの瞳だった。茉莉は顔をぶわぁと赤くして慌てて顔を隠した。志乃は残念そうに聞く。 「どうして隠すの? 恥ずかしい?」 「私の目、魅了眼なんです。えっと、体の発育がいいのも種族のせいで……」  茉莉は口篭る。 「なんの種族なの? じゃあ、こうしよう! 私も種族教えるよ! 私はねぇ、鬼なんだー」 「ふぇっ! 鬼、ですか。す、凄いですね……それに比べたら私なんか……」 「私なんかって言わない! 自分に自信を持つ事もすんごく大事だよ! さぁどうぞ!」 「……む、夢魔なんです」  そう言うと下を向いてしまった。 「……しい」 「え」 「珍しいね! 私、夢魔の人なんて初めて会ったよ!」 「で、でも、夢の中でそ、そのいやらしい行為をする種族で……」 「いやいや、その考えは古いね!」 「……え?」 「夢魔ってね、夢の中なら好き放題出来るでしょ? その力を使って疲れたみんなを楽しませることが出来る種族なんだよ!」 「で、でも! お母さ……母からはそんなこと一度も聞いたことがありません! でまかせを言わないでください!」  志乃は茉莉の初めての反応に驚いた。そこでニヤと笑ったのだ。 「夢魔は人の精気を食べる。でもこれは性行為だけが方法じゃないんだよ」 「……どうやるんですか」 「夢の中でその人のやりたいことさせてあげるの。そうしたらその人は元気になる。そんで、元気になった人の溢れてしまった精気を食べるの。夢の中だから具現化もできるね」 「そ、そんなやり方があったなんて……」  志乃はこの方法を母美麗から聞いた。美麗は嘘をつかない。絶対安心の情報なのだ。  茉莉はプルプルと震えだし、いきなり席を立った。そして志乃の手を握った。 「……お姉様!」 「なんでぇ!」 「志乃さんは私のお姉様です! 革新的な食事方法を教えて下さった方ですもの! どうやったら今の私から脱却できますか?」 「……前髪切ってみるとかどう?」 「前髪を切る……良いですね! 今日帰ったら切ります!」  さっきとは大違いにマシンガントークが始まる。これがこの子の素なんだなと思い、嬉しくなった。 「でも、お姉様はやだな……私の友達になって欲しいなぁ」 「……いいんですか? 私なんかが友達で」 「あ、また言った! 私なんかなんて言わないの!」  志乃は茉莉の頬をつねった。でも茉莉はとても嬉しそうで。 「これが、友達なんですね……私、今が1番幸せです」  次の日、茉莉が前髪を切って登校した。  彼女を虐めていた奴らは驚愕の表情。志乃はそれを見て満足そうに笑った。茉莉もC組のクラスメイトに積極的に話しかけられるようになったらしく、喜んでいた。 「志乃ちゃんが、私を変えてくれたんです。大好きです志乃ちゃん」  茉莉は志乃にべったりになった。日南はそれを見て、志乃に新しく友達が出来たと泣いて喜んだ。それと志乃親衛隊が作れるぞとか言っていた。
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