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式野の短編集より「鮫のカゲ」
「録音されると思うと緊張するな。これは怖い話じゃ無いんだ、と俺は思ってる」
と、彼は言う。そうしてはにかみながらも不思議な話をし出した。
これが怖い話がどうか自信が無いんだよ。変な話だけど、怖くは無いんだ。
えっと、あれは俺がガキの頃の話だ。
俺とオカンはクソ親父から逃げてボロアパートに住んでいた。DVってやつだな。持てる物だけ持ったから資金も少なくて、住む場所は限られてる。
そういう所って、当然だけど治安が悪いんだ。
ガキの泣き声やら怒鳴り声やらが聞こえる。注意じゃ無くて怒鳴りつけるような、感情に訴えるやつだ。だから、オカンはPTSDでどうにかなる前にさっさと復職した。暇を持て余して親父とのことを思い出すのも嫌だったんだろう、できるだけ家に居ようとしなかったんだ。
俺は親父に見つかるのが怖くて外で遊ぶことも出来なかった。登校、下校はなるべく目立たないように、かつ早足で歩いていたし、休日は勿論家に籠もっていた。
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