式野の短編集より「鮫のカゲ」

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 隣の部屋から何か聞こえなかったかと、訊ねる警察も動揺を察せられないようにしていたのがうかがえた。 「助けてという声以外、何も聞こえなかった。でも、それは毎日聞こえてた。隣の人はよく怒鳴ってたから」  そんな事を答えたと思う。  でも、実際そうだったから仕方が無い。警官はどうにかこうにか俺から情報を聞き出そうとしたけれど、残念ながら俺はなんの力にもなれなかった。  警官と話をしている間も、俺の目はどこかにいるであろう鮫の影ばかりを探していた。沢山の人が廊下を、俺の家を行ったり来たりするもので鮫の影は見つけられなくなっていた。  それが酷く、酷く寂しく感じ、俺と鮫の影を邪魔する周囲の人間を恨んだ。  鮫の影のことを話したかったが、おかしいと言われるのが恐ろしくて口に出せなかった。それとこれとは話が違うから。
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