式野の短編集より「海のニオイ」

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 Oさんは大学生で、家賃が安いアパートに住んでいる。とするならば、少し治安というのも悪い。近所でも悪い意味で有名な人物が一人いた。  昼間はそこらを歩き、そして買い物するでも無く帰ってくる。中肉中背の四十代の男。所帯は持っておらず、職に就いているのかすら定かでは無い。  Oさんの近所トラブルで何度も警官がやってくる。Oさんと同じ階の人間なので警官を見る度「またか」とさえ思うほどだ。  ある日、Oさんが買い物帰りに歩いていると、突然男の悲鳴が聞こえた。  若者がはしゃぐような声では無い。その尋常ではない声にOさんは驚いて足を止めた。  正義感もあったが、野次馬根性の強い彼は急いで声がする方へと走っていった。  叫び声が聞こえたは良いが、どこの部屋の住人のものか分からない。ウロウロするのもよくないと思い始めた頃、玄関扉を少しだけ開けた住人と目が合った。 「悲鳴が聞こえたんですけど、どうしたんですか?」  と、問うとOさんと同じ年くらいの住人は怯えながら「分からないです」と答える。  そう答えた瞬間、Oさんは不思議に思った。
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