式野の短編集より「海のニオイ」

3/3
前へ
/14ページ
次へ
 彼の玄関から磯の香りが漂った。  ここの県に海は無い。それこそネタにする程に。なのに、彼の家だけではなく通路一帯から異様に海を思い出させるような強烈なニオイが鼻を刺激した。  程なくして警官が来て、Oさんは追い出された。  アパートの一室に立ち入り禁止のテープが厳重に巻かれ、住人らしき人がひそひそとやっている。  そこに住んでいる人間が死んだらしいと分かったのは、やってくる警官が増えていったからだ。なのに、一向にブルーシートがかけられた担架がやってこない。  出てくるのは首を傾げ、腰に手をあてた警官ばかりだ。  ふと、ケイタイに連絡が入り確認すればOさんの彼女からだ。 「大丈夫?」  もうウワサを聞きつけたのかと思ったOさんだが、彼女は更に続けた。 「アンタが鮫に食べられる夢を見たの」  それ以降、磯の香りはしないという。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加