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社長室。
神妙な面持ちで暫し考え込むレーヤ。
「安泰寺、普明寺、妙見寺か…。まぁ、全員無事だったのは幸いとしても。やはり敵は、真言宗派と考えて間違いないかな」
「座主の菅原大僧正が他界し、久我山 宗守ってのがその座に着いてから、東密の動きがおかしい」
東密とは、真言宗に伝わる密教のこと。
天台宗密教の台密と、古来から対立関係にある。
密教をインドから日本に広めたのは、真言宗の開祖・空海と、天台宗の開祖・最澄。
それに、法然が開山した浄土宗と、法然の弟子であった親鸞の浄土真宗が相見え、戦乱の歴史を重ねながら今に至る。
「今や宗戦の地は京にあらず、この東京を収めるが主の証。レーヤよ、誰が味方で敵か、見極めるべき時は近いぜ」
「まぁちょっと待て。この現代に於いて、戦など時代外れも甚だしい。東密も、高野山や東寺、善通寺などから成る古義派と、豊山や智山の新義派に分かれたままよ。真の敵とその思惑を探り、和解の道へ導くのが私の流儀」
「流儀…か。なるほど、レーヤに椅子を預けた理由はそれだな。図らずも、天台座主の地位にいるお前のオヤジ、天膳なら、黙って見過ごす訳にはいかねぇからな」
「全く…こうなることは分かっていて、面倒は私に任せたってことね」
「お前を試しているってことだ。それで、どうする? 敵の挑発だとしても、拠点を3つやられて、黙って見過すお前じゃねぇよな?」
「一言で和解と言っても…そのやり方は色々ある。既に手は打ってるわ。火災調査官の話じゃ、宗馬の言う通り『付け火』。そして、火元が分からないとなれば…」
「炎魔の仕業か…真宗は天膳側についたってことだな」
「阿弥陀仏の救いを信じ、自分の罪を自覚した悪人こそが救われる教え。当然と言うより必然」
「他力本願、悪人正機。浄土真宗の開祖、親鸞による『南無阿弥陀仏』の曲がった解釈。てことは…」
「往相回向、還相回向。奴ら自らが信じる通り、浄土宗はこちらに付く」
「阿弥陀の念仏を唱えれば、皆が極楽浄土に往生できる。全く、法然と親鸞の師弟相違の教えは、現代の世でも変わらねぇとは、大したものだ」
その会話の最中。
レーヤの携帯から『運命』が鳴り響いた。
「ゴスロリに、交響曲第5番。レーヤ、お前の頭ん中はどうなってんだ💧」
「頭の中くらい好きにさせろ💦」
一つボヤいて、電話に出るレーヤ。
この曲の相手は分かっている。
「蒼樹、珍しいわね?」
レーヤの父、天台座主 華僑林 天膳の弟、華僑林 蒼樹である。
「レーヤ様、少々面倒な客がいてね…」
(おっと、関わらぬが身のため)
その名を聞いて、出て行く宗馬。
気にはせず、窓へと椅子を回し、東京を眺めながらいつものレーヤに戻る。
「分かったわ。じゃあ、今夜亥の刻に伺う」
そう言って電話を切る。
軽く片頬が笑った。
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