【壱】出逢い

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社長室を出た後、別室に案内された真理。 余りにも突然で、予想外過ぎる展開。 信じられないのは無理もない。 その様子を見透かす瑠奈。 (本当に能力者なのかしら?) 「多分…一生懸命に、面接の練習をして来たのでしょうね。困惑してるのは分かりますが、ここは天台宗の宗務庁。素直に信じて、何も疑う心配はございません」 「そ、そうですよね💦 疑ってたら、それこそバチが当たりますね。何故かは分からないれど、ラッキーだと思うべきですね」 信仰の場に於いて、疑念を持つのは宜しくない。 ましてや、社長から直々の内定通達である。 「ラッキー…かどうか、行く末は分かりませんが💦、ここへ入りたいと願って来たのなら、喜ばしいことだと思います」 若干の含みを持った言葉。 (行く末?) 「さてと! 今日のところは、ここの詳細資料をお渡ししますので、暇な時にでも読んでおいて下さい。もし今、何かお聞きになりたいことがあれば、お答えしますが?」 言われるまでもない。 聞きたいことだらけである。 「あの…レーヤ社長のことなんですが…」 (当然そりゃ気になるわよね💧) やはりそこか、とばかりに取り繕う瑠奈。 「ああ見えても、天台座主(てんだいざす)であられる華僑林(かきょうりん) 天膳(てんぜん)様の娘。今の宗教界には珍しい程の天賦の才をお持ちです。確か…IQは230以上だと、自画自賛しておりました」 「230❗️マジ…あ💦 本当に! 凄いですね」 「近寄り難い身分を、あの出立(いでた)ちで、誤魔化しているのだと、本人は申しています」 (それが逆に近寄り難く…と言うより、近寄りたくないものだと、気付いていないのね💧) 分かり易い性分の真理。 その感情が、素直に顔に出ている。 「しかし真理さん。ゴシック・アンド・ロリータ・ファッションを(あなど)るなかれ」 別に侮ってはいない。 ただ単に今時珍しく、思わず引いてしまう。 ましてや宗教法人の社長である。 その顔色が、瑠奈に火をつけた。 「ゴシックブランドと言えど、奥深く。パンクブランドのAlgonquins(アルゴンキン)MAXICIMAM(マキシマム)。ガーゼ素材アイテムが印象的なalice(アリス) auaa(アウアア)Angelic(アンジェリック) Pretty(プリティ)。ボヌール・シュエットが運営するApleberute(アプレビュート)等はまだ新しく、逆に中世ヨーロッパのクラシカルな美しさを特長としたATELIER(アトリエ) BOZ(ボズ)LAPIN(ラパン) AGILL(アジェル)。ラフォーレ原宿に本店を構えるATELIER-PIERROT(アトリエピエロ)BLACK(ブラック) PEACE(ピース) NOW(ナウ)PUTUMAYO(プトマヨ)。 他にも、Doris(ドーリス )excentrique(エクサントリーク)。可愛らしいFairy(フェアリー) wish(ウィッシュ)や姫ロリ系のJesus(ジーザス) Diamante(ディアマンテ)Lumiebre(ルミエーブル)MARBLE(マーブル)。ヴィクトリア朝時代の乙女をイメージしたVictorian(ヴィクトリアン) maiden(メイデン)VISIBLE(ヴィジブル)。それから…」 「あ…あの、瑠奈さん!」 「えっ、何? ハァ…ハァ…息が…死ぬかと思ったわ💦 ついつい熱くなってしまって…」 日頃溜まっていた、レーヤへの不満。 他人に話すのは、瑠奈には珍しいことである。 (私としたことが…もしやこの娘の能力か?) 「と…とりあえずたくさんあって、瑠奈さんが苦労しているのは、凄〜く伝わりました」 中身は全く理解できなかったが、さすがは秘書。その記憶力は凄いと感心した。 「そう! そうなのよ。オマケに高いしね」 (あらら、また?) 他人に愚痴をこぼすのも珍しい。 「あの…知りたいのは、そこじゃなくて」 「えっ、違うの? ならば早く言ってくれれば…」 そう言われても、勝手に始めたのは彼女である。 ぐったりと、ソファに身を埋める瑠奈。 「それで、何なのかしら?」 そうなると、今度は間違いなく予想は付く。 「今知らなくても良いことで、大変失礼なことなんですけど…」 「やはり…気が付いていたのね」 「はい。…多分」 (今度はそれだと思う) (仕方ない。いずれは知れること) ふぅ〜と一息吐いて、話し始める。 「実は…レーヤ様には、お気付きの通り、両腕がありません。あの派手で長いアームカバーは、日焼け対策のアームカバーではなく、それを隠すためのものです」 「やっぱり…ドアノブはないし、最初は服を羽織ってるだけかとも思いましたが、どう見ても不自然で。尋ねるのも、あまり見るのも悪いかと…」 「良くは知りませんが、生まれつきの様でございます。真理さん、今はそうやって特別視して気を遣う方が、偏見的に見られる時代です。当たり前のことだから、普通に訊けば良いのです。例えば、事故で指先を失ったり、片目を失った人に、どうしたの?と尋ねることと同じです」 「なるほど…確かに。気になっても、言わないこと自体が差別意識ね。ありがとうございます」 「レーヤはその秘密を、今も探っている様です。色々と裏があるみたいで、必ず暴いて、取り返すと言っておりました」 「取り返す? 誰から?」 「さぁ…父親の天膳様も、分からないとのこと」 「真理さん、力を貸してあげて下さい。レーヤが初対面の方に、あんなに普通に話せるのは珍しく、貴女の人徳かと思います。同級生ですしね」 同級生…と言われて、素直に納得はできないが… 「分かりました。任せてください!」 純粋無垢な、前向きな性分である。 「今日の午後は空いていますので、大学に行かせますわ。では、今日はこの辺で。私の携帯番号などの連絡先も、記載してありますので」 「ありがとうございます!」 俄然、やる気になった真理。 これが、争いへの参入を意味するとは、まだ思ってもおらず、直ぐに分かるとも知らず。
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