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社長室を出た後、別室に案内された真理。
余りにも突然で、予想外過ぎる展開。
信じられないのは無理もない。
その様子を見透かす瑠奈。
(本当に能力者なのかしら?)
「多分…一生懸命に、面接の練習をして来たのでしょうね。困惑してるのは分かりますが、ここは天台宗の宗務庁。素直に信じて、何も疑う心配はございません」
「そ、そうですよね💦 疑ってたら、それこそバチが当たりますね。何故かは分からないれど、ラッキーだと思うべきですね」
信仰の場に於いて、疑念を持つのは宜しくない。
ましてや、社長から直々の内定通達である。
「ラッキー…かどうか、行く末は分かりませんが💦、ここへ入りたいと願って来たのなら、喜ばしいことだと思います」
若干の含みを持った言葉。
(行く末?)
「さてと! 今日のところは、ここの詳細資料をお渡ししますので、暇な時にでも読んでおいて下さい。もし今、何かお聞きになりたいことがあれば、お答えしますが?」
言われるまでもない。
聞きたいことだらけである。
「あの…レーヤ社長のことなんですが…」
(当然そりゃ気になるわよね💧)
やはりそこか、とばかりに取り繕う瑠奈。
「ああ見えても、天台座主であられる華僑林 天膳様の娘。今の宗教界には珍しい程の天賦の才をお持ちです。確か…IQは230以上だと、自画自賛しておりました」
「230❗️マジ…あ💦 本当に! 凄いですね」
「近寄り難い身分を、あの出立ちで、誤魔化しているのだと、本人は申しています」
(それが逆に近寄り難く…と言うより、近寄りたくないものだと、気付いていないのね💧)
分かり易い性分の真理。
その感情が、素直に顔に出ている。
「しかし真理さん。ゴシック・アンド・ロリータ・ファッションを侮るなかれ」
別に侮ってはいない。
ただ単に今時珍しく、思わず引いてしまう。
ましてや宗教法人の社長である。
その顔色が、瑠奈に火をつけた。
「ゴシックブランドと言えど、奥深く。パンクブランドのAlgonquinsやMAXICIMAM。ガーゼ素材アイテムが印象的なalice auaaやAngelic Pretty。ボヌール・シュエットが運営するApleberute等はまだ新しく、逆に中世ヨーロッパのクラシカルな美しさを特長としたATELIER BOZやLAPIN AGILL。ラフォーレ原宿に本店を構えるATELIER-PIERROTにBLACK PEACE NOWやPUTUMAYO。
他にも、Doris、excentrique。可愛らしいFairy wishや姫ロリ系のJesus Diamante、Lumiebre、MARBLE。ヴィクトリア朝時代の乙女をイメージしたVictorian maidenやVISIBLE。それから…」
「あ…あの、瑠奈さん!」
「えっ、何? ハァ…ハァ…息が…死ぬかと思ったわ💦 ついつい熱くなってしまって…」
日頃溜まっていた、レーヤへの不満。
他人に話すのは、瑠奈には珍しいことである。
(私としたことが…もしやこの娘の能力か?)
「と…とりあえずたくさんあって、瑠奈さんが苦労しているのは、凄〜く伝わりました」
中身は全く理解できなかったが、さすがは秘書。その記憶力は凄いと感心した。
「そう! そうなのよ。オマケに高いしね」
(あらら、また?)
他人に愚痴をこぼすのも珍しい。
「あの…知りたいのは、そこじゃなくて」
「えっ、違うの? ならば早く言ってくれれば…」
そう言われても、勝手に始めたのは彼女である。
ぐったりと、ソファに身を埋める瑠奈。
「それで、何なのかしら?」
そうなると、今度は間違いなく予想は付く。
「今知らなくても良いことで、大変失礼なことなんですけど…」
「やはり…気が付いていたのね」
「はい。…多分」
(今度はそれだと思う)
(仕方ない。いずれは知れること)
ふぅ〜と一息吐いて、話し始める。
「実は…レーヤ様には、お気付きの通り、両腕がありません。あの派手で長いアームカバーは、日焼け対策のアームカバーではなく、それを隠すためのものです」
「やっぱり…ドアノブはないし、最初は服を羽織ってるだけかとも思いましたが、どう見ても不自然で。尋ねるのも、あまり見るのも悪いかと…」
「良くは知りませんが、生まれつきの様でございます。真理さん、今はそうやって特別視して気を遣う方が、偏見的に見られる時代です。当たり前のことだから、普通に訊けば良いのです。例えば、事故で指先を失ったり、片目を失った人に、どうしたの?と尋ねることと同じです」
「なるほど…確かに。気になっても、言わないこと自体が差別意識ね。ありがとうございます」
「レーヤはその秘密を、今も探っている様です。色々と裏があるみたいで、必ず暴いて、取り返すと言っておりました」
「取り返す? 誰から?」
「さぁ…父親の天膳様も、分からないとのこと」
「真理さん、力を貸してあげて下さい。レーヤが初対面の方に、あんなに普通に話せるのは珍しく、貴女の人徳かと思います。同級生ですしね」
同級生…と言われて、素直に納得はできないが…
「分かりました。任せてください!」
純粋無垢な、前向きな性分である。
「今日の午後は空いていますので、大学に行かせますわ。では、今日はこの辺で。私の携帯番号などの連絡先も、記載してありますので」
「ありがとうございます!」
俄然、やる気になった真理。
これが、争いへの参入を意味するとは、まだ思ってもおらず、直ぐに分かるとも知らず。
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