【壱】出逢い

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大学へ行く予定ではなかった真理。 余りにも早く面接が終わり、落ち込むこともなし。 午後にレーヤが来る?と思い、行くことにした。 12:10。 キャンパス内は、昼を迎えて騒がしい。 学食は安くて栄養バランスが良く、一般客も多い。 豊島区にある都心のキャンパスには、本館となる1号館〜10号館まであり、各学科専用のフロアがあるのが特徴である。 仏教学部がある5号館2階。 窓からは、キャンパス内の観音堂が見える。 「あれ? 日下部さん、確か今日は面接では?」 仏教学部教諭の加世(かぜ) 氷見子(ひみこ)が、丁度着いた真理に後ろから声を掛けた。 「はい、早く終わったので、出て来ました」 「と言うことは、感触ありってことね?」 大抵の学生は、疲れか落ち込みで出て来ない。 「ま…まぁ、そんなとこです」 まさか、もう内定が決まったとは言えない。 と、その更に向こうから。 「お〜い真理、メシ食ったか?」 元気なゴスロリが、大声で呼んだ。 今朝より多少は地味系な彩りではあるが、目立つことには変わりない。 「あらら、これは華僑林さん珍しい。今日の公務は終わられたのですか?」 「ん?…アンタ誰?」 一瞬の鋭い視線を、真理は感じた。 「レーヤ社…さん💦 仏教文化遺産の先生ですよ」 「華僑林さんは、確か専攻されていらっしゃらないので、お会いしたことはないですが、噂は聞いています。一度お会いして、少し話で…」 「文化遺産って言葉自体気に入らないから、私には必要ないわ。ごめんね〜先生。しっかし、久しぶりに来てみたら、建物増えてるし、儲かってんのね〜ここ」 (い…いつから来てないのよ💧) 「あ、そうだ。真理、今夜空いてる? そんな顔してないで、ちょっと付き合って貰えるかな?」 (どんな顔よ、全く) 「特に予定はありませんが、何時頃でしょう?」 「()の刻だから、半刻前にアパートへ迎えをやるわ。じゃあ、よろしくね」 それだけ言って、180度向きを変えるレーヤ。 「ちょっと、レーヤ…さん! 授業は?」 「瑠奈にうるさく言われて来ただけだし、用事はそれだけだから。が忙しいので」 去って行った。 その背中を見送る加世(かぜ)。 その顔は見えないが、真理は嫌な気配を感じた。 「日下部さんは、彼女と親しいのですね」 「いえ、今朝…初めて会っただけです」 「あらそう。噂に聞いた通り、好き嫌いが激しく、変わった人ですね。あれで僧正(そうじょう)とは、天台宗の行く末は危ういわね」 (また…) 不知火(しらぬい) 瑠奈(るな)に続き、1日に2度も聞くほどポピュラーなフレーズではない。 そして、加世(かぜ) 氷見子(ひみこ)の言う『行く末』にも、同じ響きを感じたのである。 「あっ、真理! やっぱり来たのか。鶴城(つるぎ)も来てるから、こっち来いよ」 京都から真理に付き添う様に、一緒に転入して来た幼馴染の枚方(ひらかた) 陽平(ようへい)神崎(かんざき) 鶴城(つるぎ)は、真言宗智山派の座主(ざす)とも呼ばれる大僧正(だいそうじょう)の次男。 容姿端麗、勉学・術式共に優秀な人気者で、真理が片想いの恋心を抱いている相手。 「鶴城さんが!? 待って、行く行く。では先生、失礼します」 さり気なく歩き出し、徐々に歩速を上げ、角を曲るとダッシュした。 (天台宗の華僑林が、浄土宗の日下部に目を付けたか…さすがに手が早い。智山派の神崎に、浄土真宗の枚方。面白い面子(めんつ)が揃ってるわね) 密かにそのを想像しながら、笑みを浮かべる加世であった。
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