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大学へ行く予定ではなかった真理。
余りにも早く面接が終わり、落ち込むこともなし。
午後にレーヤが来る?と思い、行くことにした。
12:10。
キャンパス内は、昼を迎えて騒がしい。
学食は安くて栄養バランスが良く、一般客も多い。
豊島区にある都心のキャンパスには、本館となる1号館〜10号館まであり、各学科専用のフロアがあるのが特徴である。
仏教学部がある5号館2階。
窓からは、キャンパス内の観音堂が見える。
「あれ? 日下部さん、確か今日は面接では?」
仏教学部教諭の加世 氷見子が、丁度着いた真理に後ろから声を掛けた。
「はい、早く終わったので、出て来ました」
「と言うことは、感触ありってことね?」
大抵の学生は、疲れか落ち込みで出て来ない。
「ま…まぁ、そんなとこです」
まさか、もう内定が決まったとは言えない。
と、その更に向こうから。
「お〜い真理、メシ食ったか?」
元気なゴスロリが、大声で呼んだ。
今朝より多少は地味系な彩りではあるが、目立つことには変わりない。
「あらら、これは華僑林さん珍しい。今日の公務は終わられたのですか?」
「ん?…アンタ誰?」
一瞬の鋭い視線を、真理は感じた。
「レーヤ社…さん💦 仏教文化遺産の先生ですよ」
「華僑林さんは、確か専攻されていらっしゃらないので、お会いしたことはないですが、噂は聞いています。一度お会いして、少し話で…」
「文化遺産って言葉自体気に入らないから、私には必要ないわ。ごめんね〜先生。しっかし、久しぶりに来てみたら、建物増えてるし、儲かってんのね〜ここ」
(い…いつから来てないのよ💧)
「あ、そうだ。真理、今夜空いてる? そんな顔してないで、ちょっと付き合って貰えるかな?」
(どんな顔よ、全く)
「特に予定はありませんが、何時頃でしょう?」
「亥の刻だから、半刻前にアパートへ迎えをやるわ。じゃあ、よろしくね」
それだけ言って、180度向きを変えるレーヤ。
「ちょっと、レーヤ…さん! 授業は?」
「瑠奈にうるさく言われて来ただけだし、用事はそれだけだから。公務が忙しいので」
去って行った。
その背中を見送る加世。
その顔は見えないが、真理は嫌な気配を感じた。
「日下部さんは、彼女と親しいのですね」
「いえ、今朝…初めて会っただけです」
「あらそう。噂に聞いた通り、好き嫌いが激しく、変わった人ですね。あれで僧正とは、天台宗の行く末は危ういわね」
(また…)
不知火 瑠奈に続き、1日に2度も聞くほどポピュラーなフレーズではない。
そして、加世 氷見子の言う『行く末』にも、同じ響きを感じたのである。
「あっ、真理! やっぱり来たのか。鶴城も来てるから、こっち来いよ」
京都から真理に付き添う様に、一緒に転入して来た幼馴染の枚方 陽平。
神崎 鶴城は、真言宗智山派の座主とも呼ばれる大僧正の次男。
容姿端麗、勉学・術式共に優秀な人気者で、真理が片想いの恋心を抱いている相手。
「鶴城さんが!? 待って、行く行く。では先生、失礼します」
さり気なく歩き出し、徐々に歩速を上げ、角を曲るとダッシュした。
(天台宗の華僑林が、浄土宗の日下部に目を付けたか…さすがに手が早い。智山派の神崎に、浄土真宗の枚方。面白い面子が揃ってるわね)
密かにその行く末を想像しながら、笑みを浮かべる加世であった。
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