【弐】異能

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東京都西多摩郡奥多摩町。 標高1005mの月夜見山の麓に、天台宗 関東本山の冥奉寺(めいほうじ)がある。 「レーヤ様、これは…」 亥の刻の少し前に着いたレーヤと瑠奈。 車を降りた瞬間に、異様な瘴気を感じた二人。 「お待ちしておりました」 門で待っていた尼僧が迎える。 真っ白な和装を見に纏い、表情は険しい。 「 蒼樹(そうじゅ)は?」 「既に始めておられます」 そこへバイクに乗った、ヒーラと真理が着いた。 ヘルメットを脱ぐ二人。 「すまないが、何か履き物を頼む」 「はい、直ぐに」 バイクから降りない真理。 その素足に気付いたレーヤである。 「ちょっと急いだもので…」 「ヒーラ、窓を破ってはいないな?」 全てお見通しのレーヤに、驚きつつうなずく。 尼僧が、僧侶用の履き物を持って来た。 「どうぞこちらを」 「ありがとうございます」 それを見ながら、レーヤが門へ向きを変えた時。 「キャ!」「ガシャン」 跨ったバイクから降りようした真理。 履き物に気を取られてか、バランスを崩してバイクごと倒れた。 「大丈夫か、マリ?」 「あぁ…バイクが💧」 真理に手を貸す尼僧。 バイクに手を貸すヒーラ。 「大丈夫です…すみません💦」 履き物を履いた真理を見て、門へ一歩踏み出す。 「キャ!」 「今度は何なの?」 呆れた声で瑠奈が呟き、二人が振り向く。 「すみません…(つまず)いて💦」 (何やってんだろ私) 「真っ平らな路面で、躓くものか?」 バイクを起こし、点検しながらヒーラも呆れる。 しかし、レーヤだけは違った。 今度は真理が来るまで待つ。 「よほど私を中へ行かせたくないのね」 (一体何が居るのか? 楽しみだ) 「えっ? そんなつもりはないのですが…」 そう言う真理に、ニコリと笑うレーヤ。 門の石段に足を掛ける。 「キャ!」 躓く真理を予測して、レーヤが支えた。 「他心眼…か、レーヤ?」 術式に詳しく、それに()けたヒーラ。 3回目のそれで、レーヤの言葉を理解した。 「その通り。真理、君には無意識に周りの人の危険を察知し、止める能力がある」 「えっ? そんなもの私になんか…」 しかし、言われてみると、不可思議な出来事が、幾つか思い出された。 「君はその能力で、無意識に周りの人を救って来たでしょ? 私と初めて会ったカフェでも。君があの店員を呼び止めなければ、彼女は振り向いて、立ち上がった男性にぶつかり、お盆に乗せた物をひっくり返していた」 「あの時…確かに何故か嫌な感じがして、気が付いたら、用もないのに呼んでいた…」 「乗り遅れそうなバスに、友達と走っていて転び、乗れなかったバスは、その先で事故に。信号が青に変わり、渡ろうとして落としたスマホが、皆んなの前に転がり足を止め、その直後に暴走車が信号を無視して走り抜けた…」 「瑠奈さん、どうしてそれを?」 「ルナには、他人の記憶を辿る『回帰想眼』の能力があってね、君の能力は、『他心眼』と呼ばれるものよ。残念ながら、まだ自分のことは察知出来ないけど、訓練次第では感じる様になるかも知れないわ」 「そんな…全然知らなかった。じゃあ、私の内定を決めたのも、今夜呼んだのも?」 「そう、その能力は、私達の大きな救いになるもの。お互い、運命からは逃れられないものよ。許してね、マリ」 その時。 「グゥオォオー❗️」 大きな何かの咆哮が響き渡った。 真理の手を握るレーヤ。 「ルナ、ヒーラ、マリ、行くわよ❗️」 手を繋いでいると、真理が躓くことはなかった、 急いで寺の中へと駆け込む3人。
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