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天台宗関東本山、冥奉寺。
祷祈堂の周りを囲む、白装束の僧侶達が、必死に経典を読み続けている。
「護摩か…調伏法による怨霊退散ね」
堂の煙突から登る煙を見てレーヤが呟き、無警戒な自然体で入り口に立つ。
「レーヤ、入っちゃダメ!」
「やっとそう呼んでくれたわね。その調子よ。堅苦しいのは嫌いなの私」
その中に居るモノ。
それが普通ではないと、真理にも分かった。
「どうやらレーヤ様、コイツには心術や、術師用の技や能力は無意味ですね」
「そのようね。ヒーラ、お前の防術で、外の者を守ってくれ。ルナは闘神術で、ヤツの破片一つも逃がさずに、確実に葬ってくれるかな」
「了解」「いいわよ」
「ちょっと待って! まさか一人で入るつもり?」
「一人じゃない。中には蒼樹がいる。でも…彼にはちょっと荷が重過ぎたみたい。だから、私を呼んだのよ」
いつの間にか、堂の周りの床に、文字を書いた紙を並べているヒーラ。
南、無、妙、法、蓮、華。
そして、その輪の外側。
堂の入り口前に胡座し、両手を広げて膝の上に置き、人差し指と親指で輪を作る。
ヨガ等で見かける、チン・ムドラーのポーズ。
親指は「神・宇宙・最高原理」を表し、人差し指は「心・自我」を表す。
つまりは、自分自身と宇宙の最高原理をつなげることを意図し、仏像にもよく見られる。
本来仏教は、悟りを得ることを究極の目的とする。
しかし、大衆の欲望を叶えることに慎重であったヒンドゥー教に押され、祈祷や儀式を取り入れ、神々を仏教の崇拝の対象とするようになった。
それこそが密教であり、天台宗の台密と、真言宗の東密である。
「マリ、ルナ、私の後ろに。皆さんも離れて」
「しかし、今結界を解くわけには…」
「大丈夫よ、お疲れ様。ここからは私達に任せて。ヒーラ、よろしく!」
文字を並べた輪の外に全員を出し、堂の扉を開けて中へ入って行くレーヤ。
それを見て、瞑想したヒーラ。
両手の指で、複雑な印を結び変えながら唱えた。
「南無妙法蓮華、悪霊束縛、我念法成❗️」
「あっ?」
周りに漂っていた嫌な感じが消えた。
満ちていた瘴気を、ヒーラが円に封じたのである。
「凄い…これが天台宗密教、台密の技か!」
初めて見る術に驚く尼僧や僧侶。
そのヒーラの円の中へ入り、文字を挟んで向かい合って、同じ様に座したルナ。
瞑想したまま、人差し指と親指で円を作った両手を、左右に開いて刻を待つ。
(緑と赤…)
この時、真理の心眼には、二人を包むオーラが見えていた。
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