【弐】異能

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天台宗関東本山、冥奉寺(めいほうじ)祷祈堂(とうきどう)の周りを囲む、白装束の僧侶達が、必死に経典を読み続けている。 「護摩か…調伏法(ちょうぶくほう)による怨霊退散ね」 堂の煙突から登る煙を見てレーヤが呟き、無警戒な自然体で入り口に立つ。 「レーヤ、入っちゃダメ!」 「やっとそう呼んでくれたわね。その調子よ。堅苦しいのは嫌いなの私」 その中に居るモノ。 それが普通ではないと、真理にも分かった。 「どうやらレーヤ様、コイツには心術や、術師用の技や能力は無意味ですね」 「そのようね。ヒーラ、お前の防術で、外の者を守ってくれ。ルナは闘神術で、ヤツの破片一つも逃がさずに、確実に葬ってくれるかな」 「了解」「いいわよ」 「ちょっと待って! まさか一人で入るつもり?」 「一人じゃない。中には蒼樹(そうじゅ)がいる。でも…彼にはちょっと荷が重過ぎたみたい。だから、私を呼んだのよ」 いつの間にか、堂の周りの床に、文字を書いた紙を並べているヒーラ。 南、無、妙、法、蓮、華。 そして、その輪の外側。 堂の入り口前に胡座(あぐら)し、両手を広げて膝の上に置き、人差し指と親指で輪を作る。 ヨガ等で見かける、チン・ムドラーのポーズ。 親指は「神・宇宙・最高原理」を表し、人差し指は「心・自我」を表す。 つまりは、自分自身と宇宙の最高原理をつなげることを意図し、仏像にもよく見られる。 本来仏教は、悟りを得ることを究極の目的とする。 しかし、大衆の欲望を叶えることに慎重であったヒンドゥー教に押され、祈祷や儀式を取り入れ、神々を仏教の崇拝の対象とするようになった。 それこそが密教であり、天台宗の台密と、真言宗の東密である。 「マリ、ルナ、私の後ろに。皆さんも離れて」 「しかし、今結界を解くわけには…」 「大丈夫よ、お疲れ様。ここからは私達に任せて。ヒーラ、よろしく!」 文字を並べた輪の外に全員を出し、堂の扉を開けて中へ入って行くレーヤ。 それを見て、瞑想したヒーラ。 両手の指で、複雑な印を結び変えながら唱えた。 「南無妙法蓮華、悪霊束縛、我念法成(がねんほうじょう)❗️」 「あっ?」 周りに漂っていた嫌な感じが消えた。 満ちていた瘴気を、ヒーラが円に封じたのである。 「凄い…これが天台宗密教、台密の技か!」 初めて見る術に驚く尼僧や僧侶。 そのヒーラの円の中へ入り、文字を挟んで向かい合って、同じ様に座したルナ。 瞑想したまま、人差し指と親指で円を作った両手を、左右に開いて刻を待つ。 (緑と赤…) この時、真理の心眼には、二人を包むオーラが見えていた。
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