車いすテニス

2/2
前へ
/12ページ
次へ
「こりゃフレームが曲がってるな。こんな状態でよく優勝したよ」  控室で、僕は専属の競技用車いす整備士のヨウイチに声をかけられた。ヨウイチは日本人。手先の器用さは車いすのメンテナンスで最高だ。  ヨウイチがフレームを前後に動かす。競技用の車いすは、前から見ると車輪が八の字の形に曲がっている。 「アラム、悪いが義足に移動してくれないか?」 「ああ」  僕の左足は無い。  ヨウイチの言葉で、僕は立ち上がり、靴ベラのような義足をはいた。 「オイルもさしておかないとな」  ヨウイチは缶を取り出し、シュッと油を吹き付けた。  それは虫よけスプレーに似ていた。 「うあ、ごめん」  僕は思わず叫んだ。油が飛んだ瞬間、13歳の子供に戻った。  ジャングルで小銃を構えていたあの頃。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加