6人が本棚に入れています
本棚に追加
「こりゃフレームが曲がってるな。こんな状態でよく優勝したよ」
控室で、僕は専属の競技用車いす整備士のヨウイチに声をかけられた。ヨウイチは日本人。手先の器用さは車いすのメンテナンスで最高だ。
ヨウイチがフレームを前後に動かす。競技用の車いすは、前から見ると車輪が八の字の形に曲がっている。
「アラム、悪いが義足に移動してくれないか?」
「ああ」
僕の左足は無い。
ヨウイチの言葉で、僕は立ち上がり、靴ベラのような義足をはいた。
「オイルもさしておかないとな」
ヨウイチは缶を取り出し、シュッと油を吹き付けた。
それは虫よけスプレーに似ていた。
「うあ、ごめん」
僕は思わず叫んだ。油が飛んだ瞬間、13歳の子供に戻った。
ジャングルで小銃を構えていたあの頃。
最初のコメントを投稿しよう!