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「タバコが美味い」
僕は兵営でタバコを吸いながら、同門のヨランと軽口をたたきあっていた。ヨランも土にまみれたの迷彩服を着て、短くなったタバコを足元に放り、革靴で火を消す。
「アラム、俺はお前がうらやましいよ。ジャングル方面からの聖戦、だろ。俺は新入者が行う『儀式』の監督だよ」
ヨランが沈んだ顔をする。
少年兵は、『儀式』を通過して『選ばれた子供』となる。
「でも、命の危険はないじゃないか」
僕は精一杯の慰めを口にした。だが、『儀式』のように死せずとも魂を奪う行為は存在する。例えば、戦場におけるレイプだ。
僕は『儀式』なんてものは2度とやりたくないし、見たくない。『神の軍団』に加入する必須条件だから仕方なくやったのだ。上官から支給された覚せい剤を注射されて、冴えた目をして。
『儀式』を終えた兵士は、皆目の色が変わる。どんよりとして、何物にも無関心になる。そして暴力を受け入れる。
僕もタバコを消して、ジャングル踏破の準備をした。
背嚢に、赤外線暗視スコープ、虫よけスプレー、保存食、手りゅう弾、ライター、抗生物質に覚せい剤を手際よく詰める。もう数を忘れるほど繰り返した作業だ。
今度の作戦は正面きっての舗装道路での行軍ではない。首都南方のジャングルを踏破しての奇襲だ。部隊長のナジムが決めた作戦だった。
ナジムは髭を生やした30歳位の上級幹部だ。腕は筋肉で盛り上がり、胸板には多数の切り傷がある。
僕たち『選ばれた子供』は誰もナジムに反対できない。口喧嘩では言い負かされるし、ひとたびナジムが暴力を振るえば、酷い結末になる。
僕は一度、ナジムに逆らった初年度兵士が10分以上も蹴り続けられ、血反吐を吐き、血の混じる真っ赤なおしっこが3日も続いた憐れな子を見たことがある。
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