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救出
僕は覚せい剤で興奮した頭で、ジャングルを突っ走った。全身に力がみなぎるようだ。何時間も背負った背嚢が綿のように軽く感じる。
突然、僕の左足に鈍い衝撃が走った。僕は前方につんのめり、転んだ。顔中泥まみれになる。左足が動かない。慌てて太ももに目をやると、僕の左足は膝の下から無くなっていた。
対人地雷を踏んだ。
傷口は痛みを感じなかったが出血が酷い。このままではさっき切り殺した兵士と同じ運命になる。
僕は必死で頭を回し、数時間前ナイフの血をぬぐった布を傷口に当て強く絞った。噴水のような出血が弱まる。
背嚢から抗生物質を見つけ出し、水なしでかみ砕いた。
どのくらい呻吟していただろうか、日が昇り、また沈んだことは理解できた。覚せい剤が底をつく。今まで殺した兵士や子供が黄泉の国から僕を誘う。僕は恐怖と戦いながら、傷口を布でさらにきつく縛る。歯がカチカチと鳴る。だが叫んではいけない。今敵兵に見つかれば確実に殺される。
もう3回、日が昇り、沈んだ。
携帯食料と水筒の水が尽きた。乾きで喉をかきむしりたくなる。傷口が痛みを持ってくる。教練で失敗した時、罰として押し当てられたタバコ。それが100本になって膝を焼くみたいだ。
傷口を見たとき、こんどこそ僕は悲鳴を上げた。傷に白いものが湧いている。僕は一つをつかんだ。ぬるりとした白い幼虫。ウジだ。僕は生きながらに蠅のエサになりつつある。
嫌だ。こんな死に方は絶対に嫌だ。
こんな緑の地獄で息絶えるのは。
僕は最後の力で虫よけスプレーとライターを取り出した。深呼吸を一つして、傷口にスプレーを噴射し、ライターで火をつける。即席の火炎放射器で傷口を塞いだ。自分が焼ける、卵の腐ったような臭いを嗅いだ人は少ないだろう。脳が壊れるほどの激痛に、僕はどうやら気絶した。
「おい、まだ生きている。子供だぞ!」
僕が次に目を開けた時、身体がふわりと浮かんでいた。神の国にたどり着いたのかと思ったけれど、眼前の光景はジャングルだった。僕は大人に抱きかかえられていたのだ。
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