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出会い
僕たちが暮らす施設に、ある日裕福そうなおじさんがやってきた。見たことの無い生地のスーツを着て、お腹は少し膨らんでいる。小太りで、優しそうな目をしていた。
僕たちはバスでS国の富裕層が暮らす地区に招待された。庭は手入れが行き届かず荒涼としていたけれど、そこにはプールがあり、テニスコートがあった。
みんなはこぞってプールに入ったが、僕はなぜかテニスコートに興味を持った。五体満足な人間がプレイしている姿を見るのも好きだったが、車いすの選手が生き生きとプレイしている姿に強く惹かれた。
「ちょっとやってみるかい?」
このときプレイヤーの一人からかけられた言葉が、僕の人生の転機だった。
僕は初めて競技用の車いすに座り、ラケットを持った。車いすは硬質で、重厚感があった。
もちろんすぐにはまともにプレイすることはできなかったが、僕には相手がどのサーブを打つか、バウンドした球がどこに跳ねるのかが手に取るように分かった。弾雨をかいくぐった経験が活きたのかもしれない。あまり少年兵時代を思い出したくはないが、人間、何か体験すれば、何かに見合ったものを手に入れる仕組みらしい。
一週間の滞在。
僕は毎日テニスコートに出た。小柄なプレイヤー用の車いすを無理やり操縦してのプレイだった。7日かけて、先輩たちと互角にプレイすることができるようになった。周りからは天才だ、と褒められた。
目をかけてくれたのは裕福なおじさんだ。おじさんは「君の才能に惚れた」と言い、アメリカ留学の推薦状を書いてくれた。
その幸運と努力が実り、僕は今、金メダルを手にしている。
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