曇り空

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曇り空

『散歩しよう』 梨花は独り暮らしには少し贅沢なマンションのドアを開けた。 重い顔をあげ空を見上げる。 曇り空。 せめて青空だったら良かったのに…、そう思うと同時に一粒の涙がこぼれた。ダメだ、こんなところで…、梨花は目頭を強く抑えた。目を開けることができない。しばらく呆然と立ちすくんだ。何も聞こえない。誰もいない。真っ暗。ひとりぼっち。寂しさなのか悲しさなのか不安なのか胸が苦しくなった。 「おはよー」 遠くから声が聞こえた。我に返り目をゆっくり開けた。曇りなのに眩しい。犬のお散歩の常連さんの挨拶のようだ。芝犬とトイプードルも大喜びではしゃいでいる。飼い主さんは仲良く会話を始めた。 目に入るもの全てが楽しそうにみえた…、一段と孤独を感じながら再び一歩一歩ゆっくりと歩き出した。 悲しいことがあっても下を向くんじゃない、上を見上げるんだよ、亡くなったおばあちゃんの言葉を思い出して上を見たのに…。 おばあちゃん、空は曇りだよ、悲しいよ。うえも向いてもどうしようもない。どうしたらいいの?心の中でつぶやいた。 どんよりとした曇り空の散歩はどれぐらい歩いたんだろうか、自分ではよく分からなかった。ただマンションに戻ってくることはできた。
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