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健史との出会い
梨花は中山健史と付き合っていた。
出会いは会社の懇親会。
梨花の営業所と健史の営業所は違っていたが近い将来、合併の話が出ていた。その時のことも考え少しずつ接点を持っておいた方が良い…と会社は考えたみたいだ。
あまり気乗りしなかったが、営業所同士の懇親会は初めてもあって雰囲気的に断りにくかった。
『梨花はどうする?』
同僚の真理子に聞かれた。
『とりあえず行こうかな。特に用事もないし断りにくい雰囲気だし…』
『だよね〜、私も一緒。すごく行きたくないってわけでもないし、まっ、行ったら楽しいかもしれないしね』
その気乗りしなかった懇親会に健史もいた。
気付くと自然に年齢が近いもの同士で話していた。
学生の頃の話などたわいもない話をした。
何となく波長はあうかな〜、その程度だった。
それからしばらくして梨花と健史は何度か梨花の営業所で出会うことがあった。あっ、あの人…、梨花はペコリと頭を下げた。健史も軽い会釈ぐらいだった。
梨花は事務の仕事だから他の営業所に行くことはなかったが健史はたまに梨花の営業所にも来ていた。
半年以上経過してだろうか、
『田中さん、悪いけど会議室に緑白営業所の方がいらっしゃるんだけど、所長が渋滞してて少し遅れるって伝えてくれない?先方の予定も大丈夫か確認してくれるかな?』
『あっ、はい』
梨花は、緑白営業所って…そう思いながらも足早に会議室に急いだ。
コン、コン、コン
ドキッ、やっぱり健史さんだ…、
『あの〜、申し訳ありません。所長は渋滞にはまって少し遅くなるそうです。お待ちいただくことは可能ですか?』
『はい、大丈夫ですよ』
健史は穏やかに微笑んだ。
『申し訳ありません。よろしくお願いします』
その場を去ろうとした梨花の背後から次の声が聞こえた。
『渋滞に感謝しないとな…』
『えっ?』梨花は振り返った。
『実は、田中さんともう一度話したいな〜って思ってたんだ。でもなかなかチャンスがなくて…』
『あっ、はい…』
梨花は突然のことで少し動揺した。
『ねぇ〜、今度、映画でも一緒にどう?』
『あっ、はい…』
梨花は、イエスともノーともとれそうな曖昧な返事をした。
健史はスマートに名刺を取り出し携帯番号を書いた。
『今夜電話するから、良かったら電話に出てよ。嫌だったら出なくていいよ。でも出なかったら時間置いて3回かけていいかな?
たまたま出れなかった…ってので落ち込みたくないから』
『もう戻った方がいいよ』そう言って優しく微笑み私の手に名刺を置いた。
『失礼します』
梨花は慌てて会議室を出た。
そのまま、ひとまずトイレに駆け込み名刺を眺めた。
「山中健史」その名刺には走り書きでありながら整った数字が11桁並んでいた。
え〜、どういうこと?何だろう?
え〜、何?何?
頭の中がぐちゃぐちゃで整理できなかった。
いや、とりあえず席に戻ろう。仕事しないと…。
突然のことで梨花は動揺した。自席に戻り意味もなくマウスを前後左右に動かす。
どれぐらいマウスを動かしていたのだろうか。
『田中さん、緑白の方はご都合はどうだった?大丈夫だった?』
梨花は『あっ、はい大丈夫です』
声がうわずったのが自分でもわかった。
報告忘れてた。ちゃんと仕事してしなきゃ。
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