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父と娘2
成徳は息を飲み「何だ?」と言い返す。
「私ね、良枝おばさんに連れられて、本当のお父さんのお墓参りに行った事があるの」
静美はそう言った。
成徳は「えっ」と言い、目をまんまるにさせる。
「知らなかったな」
「そりゃそうだよ。今始めて話したんだから」
静美の呼吸が乱れていた。
ドクッドクッという音が、成徳の耳に入る。
成徳は静美を見て「ごめん、変な事を言わせてしまったな」と言った。
静美はゆっくり深呼吸をして「いいよ、いつか話さなきゃいけない事だと思ってたから」と言って笑ってくれた。
成徳もつられて笑う。
「けどね」
そう言って、静美は一呼吸おいて成徳を見つめた。
「本当のお父さんの写真が一枚もないの。だから本当のお父さんがどんな人か全然分からないんだ」
静美は成徳から目を反らし、正面を見た。
「本当のお父さんって、お母さんが愛した人だと思う。けどお父さんもお母さんが愛した人だと思う。だから私は、お母さんが愛した人と一緒にいたかった。それが良枝おばさんのところに行かなかった理由。お父さんありがとう。私をここまで育ててくれて」
静美の眼から、涙が一粒だけこぼれる。
「化粧が台無しになるぞ」
成徳はそう言ってポケットからハンカチを取り出し、静美に渡す。
「ありがとう」
静美はハンカチで涙をぬぐう。
成徳はその姿をじっと見ていた。
「この20年間、長いようであっという間だったな」
突然、成徳が話し始める。
「良枝さんと喧嘩したこと、静美と喧嘩したこと、お母さんを愛したこと、そして静美を愛したこと。本当にいろいろあったな。俺自身も駄目なところがあったと思う。けど、お母さん含め、静美と出会えて良かった。本当にそう思えるよ。ありがとう。俺のことをお父さんと思ってくれて、本当にありがとう」
今度は、成徳の眼から涙がこぼれた。
「ちょっと、これからバージンロード一緒に歩くんだから、泣かないでよ」
静美は、成徳から借りていたハンカチを慌てて返す。
成徳は「そうだな」と言って、返してもらったハンカチで、涙をふいた。
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