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バージンロード
トントンと音がした。
ドアが開き、ウェディングプランナーが顔を覗かせる。
「失礼します。そろそろ時間になります」と声を掛けてくれた。
ウェディングプランナーに促され、成徳と静美は部屋から出る。
その時、二人の間を風が吹き抜けた。
心地良かった。
成徳と静美は目を合わし、お互いに風が吹き抜けた方向に目をやった。
「お母さんかな」
静美がそう言うと、成徳が「そうだな」と言って微笑んだ。
「和枝、これからも静美を見守ってください。よろしくお願いします」
成徳のつぶやきに、静美の顔が赤くなり「もうお父さんやめてよ」と言って、成徳の肩を叩いた。
成徳は右手人差し指で、鼻を掻く。
静美は、右手をうちわのようにして、自分の顔をあおぐ。
お互いに照れ隠しのようだ。
「あの、そろそろ」
ウェディングプランナーの呼びかけに気づいた二人は、扉の前に立った。
一緒にバージンロードを歩くためだ。
「父親として最後の仕事かな?」
「転ばないようにお願いします」
「了解」
お互いの顔を見て会話を交わした二人は、正面にある扉を見る。
「それでは新婦の入場です」
式場内にアナウンスが流れたと同時に、閉ざされていた扉が開き始めた。父と子の、次なる人生の幕開けのように……。
(完)
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