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思い出話2
「成徳さん」
良枝が声を掛ける。
成徳はハッとなり、良枝の顔を見る。
「すいません。昔の事を思い出してました」
成徳の顔が赤くなる。
「姉さんのお通夜の時ですか?」
良枝が問いかける。
「はい。あの時は感情的になりました。けど、あなたがいなければ、男一人で血が繋がっていない娘を育てるなんて出来なかったと思います」
そう答える成徳に、良枝は笑みをこぼす。
「私達夫婦には子供がいなかったので、静ちゃんを養女として迎えたかったわ」
「夫婦で来られた時は、静美を連れ去るのではないかと思いました。疑ってしまい申し訳ないです」
「確かに連れて帰りたいと思いました。成徳さんがトイレで席を離れた時、静ちゃんに聞いたんです。おばさん達のところに来ないって……。けど、静ちゃんはこう言うんです」
良枝は話しを一旦止め、大きく息を吐いて天井を見る。
数秒間、目を閉じた後、再び目を開けて、成徳を見た。
「パパと一緒にいたいって……。そう言われると私達夫婦は何も言えなかったわ」
そう言った良枝に、成徳は驚いた。
二人の会話が止まり、沈黙が続く。
「そうだったんですね」
成徳が重い口を開いた。
沈黙から15秒程経っていた。
「静美は私の何が良かったのですかね。喧嘩した時もあったのに」
「成徳さんは聞き上手だったんですかね。静ちゃんこう言ってました。お父さん何でも話しを聞いてくれるのって」
成徳の問いかけに、良枝はそう言った。
過去の思い出として、懐かしく話す。
「そうだったかな」
成徳は首を傾げる。
「ただ、恋愛の話だけは出来なかったみたい」
そう言いながら、良枝は笑った。
成徳の顔が引きつる。
「確かに恋愛の話はしなかったですね、と言うか出来ないですよ。どうしていいかも分からない」
「メール等でよく相談にのってました」
「感謝します」
成徳は良枝に一礼する。
「どんな話をしてたんですか?」
成徳の問いかけに、良枝は首を横に振る。
「女同士の話だから、聞かない方が良いと思います」
「そうですね、やめときます」
そう話した後、成徳は数メートル離れた静美を見ていた。
「小学生の時だったかな?一度だけ家を飛び出して、良枝さんの家に行った事がありましたね」
成徳は、静美を見ながら、良枝に話しかける。
「5年生の時だったかしら」
「一緒に暮らしていて、一番大きな喧嘩をしました」
「静ちゃんがパパに殴られたと言った記憶があります」
「そこまで話してましたか」
成徳は顔をしかめ、右手人差し指で鼻を掻いた。
「あの時は仕事が忙しくて、あまり相手出来なかったな。夏休みも遊びに連れて行けなかった。静美には寂しい想いをさせてしまいました。絶対に嫌われたと思いました」
「大丈夫でしたよ。静ちゃんはそれでもパパが好きと言ってましたから」
「本当に、俺の何が良かったのかな?」
成徳は腕を組み、顔をしかめた。
「今考えなくても、もうすぐ式が始まりますし」
「そうですね。すいませんでした」
この言葉を最後に、二人の会話は終わった。
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