父と娘

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父と娘

ウェディングプランナーを中心に、職員たちの動きが慌ただしくなった。 新郎新婦の親戚、友人たちが職員の誘導のもと、式場へと入って行く。 良枝も式場へと足を運び、成徳と静美だけ、別の部屋へ案内された。 二人はウェディングプランナーの指示があるまで、その部屋で待機となった。 「良枝おばさんと何話してたの?」 部屋のドアが閉まった瞬間、静美が問いかける。 「昔の事をいろいろ」 「いろいろって?」 成徳が答えても、静美がすぐさま追及する。 「静美がまだ小さかった頃の話。後、お母さんの話もしたな」 「お母さんの話もしたの」 「したよ。おかしいか」 「だってお母さんの話になると、必ず私の事で喧嘩になってたじゃない」 「そんな時もあったな」 「喧嘩しなかった?」 「しないよ。してたらこんなに穏やかじゃないだろう」 「それもそうね」 そう言って静美が笑う。 それにつられて、成徳も笑った。 「なぁ静美」 「何?」 「お父さんのどこが良かった?」 成徳が問いかける。 静美から笑顔が消えた。 「答えたくなければいいんだ。ただ気になったから」 成徳がそう言っても、静美は黙っていた。 しばらく沈黙が続く。 「ねぇ、お父さん」 静美が沈黙を破った。 成徳は静美の顔を見て「何だ?」と言い返す。 「もし私が、良枝おばさんのところへ養女に行ってたらどうしてた?」 「どうしてたって言われても……」 そう言って成徳は、静美から視線を逸らすも、再度静美を見る。 「どうしようも出来なかったと思う。お父さんは静美を手放したくない。その気持ちは今でも変わらない。ただ、お父さんと静美は血が繋がってないし、お母さんの妹である良枝さんは、静美と血が繋がっているから、お前が良枝さんのところに行くと言われたら、諦めるしかなかったと思う」 成徳は一気に話した。 ハァハァと言いながら息を吐く。 静美はその姿をじっと見ていた。 成徳は深呼吸をする。 これでもかと言うほど息を吸って、ゆっくりと吐いた。 ハァハァと言わなくなった。 深呼吸を終えた成徳に、静美が「お父さん」と声を掛ける。 「どうした?」 そう言って、成徳は静美の顔を見る。 「お父さんに話していない事があるの」
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