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片想い
19時 ホール
「ありがとうございました」
來未は、お最後の客(カップル)を見送ると、店の名前が書かれてた看板を手に取り、ホールに戻った。
「栞! 看板下ろしてきたよ!」
「ありがとう!」
來未の声にキッチンで食器を片付けていた栞が來未の方を振り返る。
「じゃあ、わたし、事務所に看板戻してくるね?」
「解った! あぁ來未! やっぱり私が行く!」
事務所にそのまま行こうとしていた來未を栞が呼び止める。
「栞!」
いきなり呼び止められた來未は、看板を手にキッチンいる栞の元に行く。
「栞? どうかした?」
「なにもないの?」
「本当?」
「本当だって! ほら? いつも來未に行って貰ってるから! ねぇ?」
栞は、來未にそう告げると、來未の手から看板を奪い取る。
「ちょっと待って栞!」
栞の突然の行動に來未は堪らず大きな声を…
「…神林! 今更店長に媚びを売ろうとしたもう遅いぞ!」
「兼城!」
「兼城君!」
突然現れた兼城に來未と栞は同時に彼の名前を叫ぶ。
しかし、肝心な兼城はそんな二人の呼びかけを無視して栞に向かって
「…店長が如月に今日の朝、わざわざ買ってこさせた試作用のドライフルーツをお前が誤ってパンケーキに使ったこと、店長が知らないとでも思ったのか?」
「…」
兼城の言葉に、その場に膝から崩れ落ちる。
「來未!」
「どうしよう?」
栞は、涙目になりながらどうしよう叫び。
「どうしようって言われても、使っちゃったもんはしょうがないからもう正直に謝るしかないよ!」
「…來未」
來未からの提案に、栞は目に涙を浮かべながら彼女の顔を見る。
しかし、そんな來未の優しい提案を…
「神林。泣いている暇があるなら早く店長に謝罪しに行った方がいいんじゃあないのか?」
「かか兼城君?」
「だってそうだろ? こんな所で泣いてるよりかは早く謝罪して、怒られる時間も限りなく短くした方がいいじゃあないのか? それとも、神林は、皆の前で怒られたいのかあの店長に?」
「あぁ…」
兼城君の言う通り、怒った時の店長はめっちゃ怖い。
そして、もし仕事中にミスをしようものなら、仕事の終わりに、皆の前で後悔処刑と言う名の説教が始まる。
だからこそ、ここで働くスタッフは、決して店長を怒らせない様に細心の注意を払っている。
兼城君の提案は、栞が一番傷つかない方法だと思う。
でも、同時に完全なる密室で、一人であの店長の恐怖に耐えないといけなくなる。
それは、地獄以外のなんにでもない。
そんな所に栞を一人では行かせられない。
「來未! 私、行ってくるねぇ!」
「ちょっと待っ…」
そんな來未の頬を思いっきり掴む。
「なにするの!」
「ごめんごめん。けど、悪いのは、試作用のドライフルーツ(苺)を使っちゃった私が100%悪いから。店長に誠心誠意謝って怒られてくるよ。だから…」
「…ストロベリーチョコフラッぺ」
來未がよく行くコンビニ(ミンミンムート)で今月限定で数量限定発売されている限定味。値段は380円。
いつも仕事終わりにあるかコンビニ見に行くのだが、いつも決まって売り切れか入荷していないかで、未だに飲むことができていない。
なので、栞に片付けを一人でする代わりにこれをお詫びとして奢るように申し出た。
「…ありがとう」
來未の言いたい事を理解した栞は、一言ありがとうと來未に告げると、來未が置いた看板を持って事務所の消えていった。
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