ーー兄という存在――

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「裕貴……何で?」 「俺はここのObなんだよ。今日は頼まれて午前中公開講義をしたんだ」 「大学ここだったんだ。頭いいんだね」 「何回か連れて来たことあったろ?」 「そうだっけ」  『きっと浮かれてたからそんなの覚えて無いんだ……恥ずかしい』 「まぁ知っての通り二年の終わりには留学したんだけど」 「ハハハ」  乾いた笑いで誤魔化す。  『嫌な事思い出しちゃうな』 「千尋は何してるの?」 「う、うん」  歯切れの悪い千尋に裕貴は言った。 「誤魔化さなくてもいいよ。理久くんだろ?」 「え?」 「千尋は推しに弱いからあんな若い力には抗えないよな」 「失礼だな」 「あんな若いの何処で引っ掛けたの?」 「学校の生徒だった」 「はー? やるもんだな。千尋は奥手なんだと思ってたけど」 「直接教えてたわけじゃないよ」 「だけどさ、学校で顔合わせるんだろ? 凄いな」 「付き合ったのは彼が卒業してからだよ」 「じゃあまだそんなに長くないね」 「うん、まぁ」 「千尋さ、彼との将来があるなんて思ってないよね? 彼あそこの跡取りだよ」 「わかってる。わかってるんだ。でもね」 「……君強くなったね」 「そんな事ない。こんな年になってもダメダメだよ」  千尋は思憂げに遠くを見た。 「それで、今日はどういう約束になってるの?」 「うん、理久に案内してもらう予定だったんだけど、コレ」  裕貴に冊子を見せた。 「ほー、さすがだな……でもこれもう時間だね」 「そうだよね」 「電話してみたら?」 「メールはしたんだけど、返事はなくて、こんな事してるのに電話は迷惑だと思うから、帰ろうかな」 「じゃあさ、コレ今から見に行こうよ」 「え?」  一方の理久は大学に着くと一人の女生徒の呼び止められた。 「理久! ちょっと何処行くのよ、こっちよ」 「は? どこでもいいだろ」 「あんた コレ忘れてんじゃないでしょうね」  女は冊子をピラピラと振った。 「何それ」 「あー やっぱり。ミスターコンテストに出るって話 承諾したでしょ?」 「知らね。 俺人と約束してるからだめだよ」 「駄目だよじゃないわよ。早く控室来て! 着替えとメイクしなくちゃ」  理久は四、五人に脇を抱えられて控室に連れて行かれた。 「これは終わるまで預かっておくからね」  スマホも取り上げられた。
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