ーー兄という存在――

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「ちょっ ふざけんなよ。俺はこんなのにエントリーなんかしてないぞ!」 「落ちればすぐ終わるからさ、頼むよ一年から出るヤツいないと格好つかないだろ」  今度は運営側の生徒が言う。 「私がエントリーしたんだよ。でもあんたいいよって言ったじゃない」 「言うわけないだろ」  『もしかしたら先生と電話中に何か言われた時? うるさいからはいはいって追い返した。やばいな……もう先生来てるんじゃないか』 「よし できた。我のセンスに涙がでるぞ」 「もう出番だよ」  カーテンを捲ってスタッフが言う。 「えーギリじゃん」 「ほら、理久 ギャラリーを圧倒させてこい!」  そう言って背中を押された理久はステージに飛び出た。 〝キャー カッコいい〟 〝あんな人いた?〟 〝私知ってる一年だよね〟 〝告白して何人も振られてるんだって〟 〝じゃあ他の学校に彼女いるんだね〟  ステージに放り出された理久は、諦めてランウェイを歩きだした。 〝アイツ何 モデルでもやってんの? ポージングもいけんじゃん〟 〝やっぱり理久に頼んで良かったよ〟  舞台袖で一年生のスタッフが盛り上がる。 〝絶対優勝だ〟  理久がステージの先端まで行き戻ろうとした時、視界に千尋が入ってきた。 「え? 先生?」  千尋はジッと理久を見ていた。  次に理久の目は千尋の隣にいた裕貴が入ってきた。  『何でアイツと一緒にいるんだ』  その場で留まったが、後ろからきた候補者に押されて舞台を去るしかなかった。 「僕やっぱり帰りますね」  『バカバカしい、こんなの理久が優勝にきまってるじゃないか」 「え、千尋 お茶でも飲んでいかないか」 「行かないよ、さようなら」 「何だよ 冷たいな」  千尋はその場を去った。  表門を出ようとした時、急に周りの空気がザワツイた。  次の瞬間〝グイッ〟と千尋は誰かに腕を掴まれた。  そこには息を切らせた理久がいた。 「理久……どうしたの。まだ途中でしょ?」 「逃げ出してきた」 「ええ 駄目じゃない」 「ごめん、俺あんなのやらされるの知らなくて、スマホも取り上げられ て……」  必死に言い訳をする。 「どうせ暇だったんだからいいよ、ステージのカッコいい理久も見たし僕はもう帰るから」 「どっか行くの?」  裕貴と並んでいた千尋を思い出す。 「帰るよ」 「でもさっきアイツといたろ。何でアイツがいたの」 「え? ああ裕貴? さっきそこでたまたま会っただけだよ。彼ここの卒業生なんだね、講義をしたって言ってたよ」 「じゃあ偶然?」 「当たり前だろ。君が捕まらないから帰ろうとしたら、コンテスト見ようって」 「それで二人でいたのか」 「二人だけじゃないでしょ? お茶の誘いはちゃんと断ったよ」  千尋は以前した約束を破ったと思われるのが心外だった為言い返した。 「アイツ……」
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