ーー兄という存在――

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「僕は帰るから、戻りなよ。迷惑かけたら駄目だよ」 「……わかった。ごめんね、千尋さん気をつけて帰ってね」  千尋はステージに戻ろうとする理久を呼び止めた。 「理久!」 「ん?」 「やるなら優勝しろよ!」  グッと拳を上げた。 「上等!」  理久はニヤッと笑って人混みに消えていった。 「優勝したらまた女子にモテてしまうな……」  千尋は小さく呟いた。  風呂も食事も済ませた千尋はリビングで有料チャンネルの映画を見ていた。  気持ちは少し落ち込んでいた。 〝彼との将来があるなんて思ってないよね〟  頭の中に、裕貴に言われた言葉が何度も反芻されながら帰って来ると、誰かに呼び止められた。 「こんにちは」  振り向くと、理久の兄の健一だった。 「こんにちは、あの理久くん今日は学園祭で……」 「うん、だから来たんです。少しいいですか?」  健一はエレベーターを指さした。 「すぐコーヒー入れますね」 「嬉しいな、千尋さんのコーヒー絶品だったから」 「フフ」  理久と違って物腰の柔らかい健一に気を良くする。 「どうぞ」  ダイニングテーブルに置く。  健一はソレを一口飲んだ。 「やっぱり美味しいな」 「ありがとうございます」 「あ、これを母から預かってきたんです」  〝ドサッ〟と渡された紙袋はかなりの手応えだった。 「重っ すごいな。帰ってきたら渡しますね」 「それ 見合いの釣書です」 「え?」 「すごい量でしょ。うちにはまだありますよ」 「そんなに?」 「それの中から俺も理久も結婚相手を選ぶんですよ」 「そんな……トランプみたい」 「ハハハうまいこといいますね。その中のお嬢さん達は全部素行も家系も調べてある人達だから……そう、相手なんて誰でもいいんですよ」 「それはいくら何でも乱暴ですよ」 「まぁ、それが一番波風立たなくて楽だからなんですけどね」 「健一さんにはお付き合いしてる人はいないんですか?」 「結婚して家を背負わせられるような人はいませんね」 「そうですか」 「千尋さん」 「はい」 「理久がいないのを知ってて来たのには理由があるんですが」  『そうなんでしょうね』
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