ーー兄という存在――

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「……って言うことは、優勝したの?」 「当たり前じゃん。チイちゃんの理久くんは顔だけで世の中渡ってきてるんだよ」 「なに言ってんだ。理久が努力家なのは僕が一番よく知ってるんだからな」 「んー、千尋さん〜」  〝チュッ チュッ チュー〟 「どうかした?」  千尋の様子がおかしいことに気づく。 「これ」  千尋はテーブルの上に重ねた釣書に目をやった。 「健一さんが持ってきたんだ」 「兄貴が来たの?」  理久はソレが何なのかすぐに解り〝まずい〟という顔をした。 「嫌なもの見せてごめん、よりによって千尋さんに渡すなんて無神経な奴だな」 「仕方ないよ、結婚して子供を作って一人前っていうのが世の中だからね」  その時理久のスマホが鳴った。 「アニキだ……もしもし」 「釣書みた?」 「ああ受け取ったよ。中身なんか見てないよ。何で俺の留守にわざわざあんなもの千尋さんに渡すんだよ」 「理久さ、この前の……千尋さんとの事って本気なんだよな」 「あたりまえだろ」 「……」 「なに?」 「いや、ちょっと話があるから一回家にきてくれない?」 「いつ?」 「日曜がいいかな」  そう言って健一は電話を切った。  電話が鳴って違う会話をしたことで、暗い空気が変わった。 「健一さん何だって?」 「なんか話があるから今度の日曜家に来いって」 「そうなんだ」  『健一さん何であんな事聞いて行ったんだろ』  さっきの健一の様子が気になる千尋だった。     ……◇……◇……◇……  次の日曜日、二人はブランチを済ませて理久は実家に向かった。  理久が家に入ると、リビングに両親と健一がいた。 「え、何なのこれ」 「私達も呼ばれたよ」  母親が言う。 「いいから座れよ」  理久は、健一に促されてソファに座った。  すると健一が話しだした。 「長くなってもアレだから、要件を先に言うね」 「何なの?」  父親は黙って聞いている。 「俺さ、今年度で大学辞めようと思うんだ」 「え?」  理久と母親が驚く。 「それでどうすんだよ」 「病院……継ごうかと。イヤそのための見習いに父さんに着こうかと思って」 「病院やってくれるの?」 「父さん、コロコロ変わって申し訳ないけど側に置いてもらってもいいかな」  父親は暫く黙っている。  理久も黙っていた。 「あなた、健一がやってくれるのが一番いいのよ」 「君は口を出すんじゃない」  母親は口元をアワアワさせながら黙った。 「動き出したら、ヤッパリ止めたなんて事は認められないのは理解してるのか」 「はい」 「それなら四月から秘書として私に付きなさい。だが見込みがなければ辞めさせるからな」 「わかってます」 「じゃあ結婚の方も急がなくちゃね」  母親はバタバタ動き出した。 「チョット待って」  母親の動きが止まる。 「俺はここを継いで、そこの候補の中の誰かと結婚するよ」 「そうね、それが一番よ。ホントによかったわ」 「その代わりっていうか……理久は好きな人と一緒にさせてやって欲しいんだ」 「え?」 「兄貴?」 「それは……お兄ちゃんが残ってくれるなら、理久は多少育ちの悪いお嬢さんでも、ねぇお父さん」 「健一だって好いた者がいるならそうしたらいい」 「あら、後継ぎには家の格が大事よ」 「だから俺は母さんが選んだ中で見合いをするからさ、理久はどんな相手でも好きにさせてやって」 「わ、わかったわ」 「約束だよ」
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