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「よかったわ。ホントによかったわ、今日はお寿司でも取りましょうか」
家族会議は流れ解散になった。
理久と健一が二人になると、理久が言った。
「あんな事言ってよかったのかよ」
「ああ言っても、あの人の事だから実際その時になったらどうなるかわからないけど、取り敢えず見合いの釣書は届かなくなるだろ」
「そうじゃないよ。兄貴はそれでいいのかよ」
「この前さ、お前の留守に家に行っただろ?」
「ああ」
「あの時さ、俺千尋さんにお前のことどう思ってるんだって聞いたんだよ」
「え?」
「そしたら あの人、お前はゲイじゃないから女を好きになるかもしれないって。その時は身を引きますって」
「ウソだろ」
「まぁ聞けよ。そう言った後、泣いたり縋ったりはしないつもりだけど、『生きては行けない』って。お前が幸せであることが、あの人には自分が死ぬ事より大事なんだよ」
「死ぬって……」
「俺かなりショックだったよ。お前の為に死ねるっていうんだよ。だけどこのまま理久が病院を継ぐことになったら絶対一緒にはいられないよ」
「そんなこと!」
「世間が認めるわけないだろ。お前だってこの前のパーティで思い知っただろ、どんだけ成功してる病院だって、剥げた政治家や太った地主達の助けがあって成り立ってるんだよ。あいつらが同性婚なんて認めるわけないじゃないか」
「だからって」
「その時に泣くのはお前じゃないよ。千尋さんだ」
「……」
「俺はさ、死んでも愛してくれると言ってくれる人とお前を一緒にさせてやりたいんだ。その為に俺に出来ることをするだけだよ」
「……ありがとう。何か腰が抜けそうだ」
「だけど、両手を挙げて喜ぶのは大分先だぞ。あの人のこと泣かすなよ」
「頑張るよ」
理久はさっきあったことが現実としてまだ飲み込めないまま家に辿り着いた。
「ただいま」
「おかえりー」
出迎えた千尋を見て〝ギュー〟っと抱き締めた。
「ちょーっと苦しいよ」
「あ、ごめん」
「話し何だったの? 困った事になってない?」
自分の顔を覗き込んで聞いてくる千尋の顔を見て『お前が幸せであることが……』と言った兄の言葉を思い出した。
理久は思わず千尋の額にキスをした。
「どうしたの?」
そして実家であった事を千尋に話した。
「ほんとに? ほんとに健一さんそんな事」
「うん、兄貴が病院やってくれるって。まぁ元に戻っただけなんだけどね。っていうかだったら俺医者じゃなくてよくない?」
「でも理久のお医者さんの姿、僕見たいよ」
「そうなの?」
千尋は黙って頷いた。
「じゃあまぁいいか」
夜、二人でベッドに先に入った理久は天井を見ながら思った。
あんなに嫌いだった健一が自分のために生き方を変えると言った。
それを決めさせたのは千尋の言葉だと言った。
「やっぱり俺のチイちゃんは最高だ!」
理久は再び千尋を抱き締めた。
「うわっ ビックリした。どうしたの、今日何か変だよ」
「フフ、なんでもない」
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