――新しい命――

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――新しい命――

    〜〜〜 新しい命 〜〜〜  十二月に入り、世間が年末に向かい慌ただしくなってきた。 「千尋さん」 「なに?」 「さっちゃんの予定日っていつだっけ」 「十二月……十日? もう過ぎてるね」 「うちの病院で産むんでしょ?」 「たぶんそうだと思うよ」 「じゃあお正月までに産まれてくれるといいね」 「なんで?」 「やっぱり休み多いとドクターが手薄になるからさ」 「そうなんだ」 「うちのオヤジは外科 母親は心療内科 兄貴は小児科 産科はいないからね」 「急に不安になってきた」 「さっちゃんに言っちゃ駄目だよ。千尋さんの不安なんて比じゃないほど不安なんだから」 「わかってるよ。……でも様子聞く電話はしてもいいよね」 「余計な事言わなきゃね」    〜〜 千尋の学校 〜〜 「ってことがあってさ」  千尋の姿は昼休みの保健室にあった。 「あの成瀬がね……まぁしっかりしてくれるのは有り難いじゃないか」 「最近保護者みたいに口煩くなってきて」 「アハハハ で、お姉さんには?」 「やっぱり今日帰りに寄ってみようと思ってるんだ。ところで赤ちゃんがいて僕は家に帰れるのかなぁ」 「え、まだ帰る気でいたの?」 「当たり前だよ。ずーっと下宿させてもらってる感じなんだから。僕の薄給ではとてもじゃないけど住めないすごいマンションなんだよ」 「成瀬はお坊っちゃんだもんね」 「そうだよ、お手伝いさんが『坊ちゃま』って呼んでたよ」 「ブッ ホントにあるんだそう呼ぶやつ」 「僕も驚いたよ」 「さっきの話だけどね。子育ては想像を絶する大変さだからさ、少なくてもすぐに戻るのは……辞めたほうがいいんじゃないかな」 「ええ」 「朝倉が何かしら戦力になるならいいけど、そうじゃないならみんなの荷物になるだけだよ。この際どこかに借りて独立したら?」 「そうか……そうだよね、ただそうなると」 「成瀬が納得しないよね」 「んー」  千尋はその日の夕方、本屋で賃貸情報の雑誌を買い、ダリアへ向かった。  〜 カランカラン 〜 「こんにちはぁ」 「何よ、ただいまって言いなさい」 「た、ただいま」 「どうしたの。喧嘩でもした?」  幸子が聞いた。 「喧嘩なんてしてないよ。平和にやってる。予定日過ぎたけど姉ちゃんどうしたかなと思って」  「うん、お腹の居心地がいいのね。こちらは迎える準備万端なんだけどね」 「そのお腹ももう見納めなんだね」 「そうよ、多分次はないからね、沢山触っておいて」  幸子は千尋に向かってお腹を突き出した。 「早くでておいで〜」  千尋はそう言いながら幸子の腹を何度も擦った。 「理久くんは元気?」 「元気だよ、この間も学祭でミスターを勝ち取ってたよ」 「チイちゃんの心配が増えたわね」 「心配なんてしたってさ、僕は捨てられないように粛々と毎日過ごすだけだよ」 「ちょっと、そんなの続かないわよ。二人の力関係は同じにしておかないと」 「それも無理な話だよ」
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