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「そう? 理久くんはチイちゃんの他は目に入っていないと思うわよ」
「そんなことないって」
幸子は千尋の持っている雑誌に目をやった。
「あなた、部屋探してるの?」
「ああ、どんなもんかなと思って。いつまでも理久の所にいられないし、ここは赤ちゃんとの新しい生活に僕は足手纏だし、何処かに借りる他ないかなと思って」
「何が足手纏なのよ! ここはあなたの家でしょ? 理久くんと楽しくやってるんだと思ってたからそのままにしてたんだけど、そうね、やっぱり居づらいわね」
「楽しくやってるんだけどね」
「だったらここへ帰ってらっしゃい」
「……でも迷惑じゃない?」
「だからそんな事あるわけないわ、むしろ赤ちゃんのいる生活はあなたには負担かもしれないくらいよ」
「浩二さんも……いい?」
「俺は今回だっていてくれて構わなかったのに、さっちゃんが理久くんと一緒にいさせたいからって……」
「姉ちゃんそんな事思って言ったの?」
「何事もタイミングよ、でもそういうことならいつでも戻ってらっしゃい」
「僕だいぶ家事もできるようになったから前程は面倒掛けないで済むと思うよ」
「あら、楽しみ」
「ああよかった。じゃあ元気そうだから今日は帰るね」
千尋は両腕を頭上で組んで伸びをした。
「何か食べていかない?」
「理久も帰ってくると思うから」
「じゃあ理久くんによろ……ッつ」
その時幸子の顔が歪んだ。
「姉ちゃん?」
「さっちゃん?」
「きたかも……」
「え? 陣痛? こんな急に?」
「ちょっと前から何か変な感じしてたんだけど……今結構刺し込んで……ん!」
「とにかく座って」
幸子の手を取って椅子に座らせる。
「それで、浩二さんどうしたらいいの?」
「……あ、電話」
浩二は病院へ連絡をして、千尋はタクシーを呼んだ。
幸子は二人に抱えられて病院へ向かった。
病院に着くとすぐに処置室に連れて行かれ、浩二と千尋はその場に置いていかれた。
「僕達ここにいていいのかな」
「そうだね、初産だしだいぶかかると思うから、千尋くんは帰っても大丈夫だよ」
「え、僕もいるよ」
「明日の朝とかまでに産まれるかわからないよ? 学校あるだろ」
「あ、そんなにかかるんだね。女の人は大変だね……わかったじゃあ一旦帰ります。何かあったらすぐに電話してね」
そう言って千尋は一旦理久の待つマンションに戻った。
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