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始まりの日 (1)
──本日、晴天。
体感的には、まだほんの少し肌寒い。
桜の花びらが陽の光を帯びヒラヒラと舞い落ちる。このなんとも形容しがたい美しい光景を、今年もまた見ることが出来る喜び。
心地よい陽の光が差す参道の端を進み鳥居をくぐる。それから数十歩ほど足を進めれば、そこには古めかしいながらも立派な拝殿があった。
深いお辞儀を2回、両手を合わせ2回拍手をし、それから最後に一礼する。
「初めまして、縁ノ御霊の神様。この春、新しくこの地域に引っ越して来た春野雅と申します。これから、どうぞよろしくお願い致します⋯!」
目の前にある古びた賽銭箱に五円玉をひとつ投げ入れ、赤と白が混ざりあった鈴緒を掴んで軽く鈴を鳴らした。
「はぁ〜⋯こんな天気のいい日に神社に参拝に来れるという至福な一時。神様、今日という日をありがとうございます」
参拝を終えて、また参道の端を通り鳥居をくぐる。そして軽く振り返り、”また来ます”とぽつり呟いた後、雅は帰路に着く。
──カランと、ひとりでに鳴った鈴の音に気づくことなく。
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