始まりの日 (1)

1/1
17人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ

始まりの日 (1)

──本日、晴天。 体感的には、まだほんの少し肌寒い。 桜の花びらが陽の光を帯びヒラヒラと舞い落ちる。このなんとも形容しがたい美しい光景を、今年もまた見ることが出来る喜び。 心地よい陽の光が差す参道の端を進み鳥居をくぐる。それから数十歩ほど足を進めれば、そこには古めかしいながらも立派な拝殿(はいでん)があった。 深いお辞儀を2回、両手を合わせ2回拍手をし、それから最後に一礼する。 「初めまして、(エン)御霊(ミタマ)の神様。この春、新しくこの地域に引っ越して来た春野(はるの)(みやび)と申します。これから、どうぞよろしくお願い致します⋯!」 目の前にある古びた賽銭箱に五円玉をひとつ投げ入れ、赤と白が混ざりあった鈴緒(すずお)を掴んで軽く鈴を鳴らした。 「はぁ〜⋯こんな天気のいい日に神社に参拝に来れるという至福な一時。神様、今日という日をありがとうございます」 参拝を終えて、また参道の端を通り鳥居をくぐる。そして軽く振り返り、”また来ます”とぽつり呟いた後、雅は帰路(きろ)に着く。 ──カランと、ひとりでに鳴った鈴の音に気づくことなく。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!