雨よ降れぃ!

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 この村は危機的状況にあった!  つまり、もう数か月も雨が降っていない。雨が降らなければ、農作物は育たない。それどころか人の飲み物だって十分ではない。川から辛うじて飲水を確保しているものの、いつ枯れるかなど想像したくもない。  神妙な顔つきで男衆が狭い部屋で議論をする。 「どうするか……」 「どうするったって、天気のことなんてどうしようもないじゃないか!」  議論は紛糾、子供は号泣。大人だって泣きたい日々が続いていた。  そんな中、村の窮状を聞きつけた流離(さすらい)の雨乞師が訪れた。村人は藁にも縋る思いでその雨乞い師を頼った。  雨乞師は話を一通り聞いてから答えた。 「この村には良くないものがあり、難儀する事は確実だ。だが、この状況を聞いて何もせずにはいられない。できる限りのことをやりましょう」  村はにわかに活気づいた。  雨乞師は村の一軒の家の中に手早く祭壇を作り上げ、儀式を始める。 「ふんだらら~やんだらら~。雨よ降れ~降れ~バットも振れ~」  村人には意味不明の呪文であったが、固唾を飲んで見守る。 「雨よ、降れぃ!」  呪文の最後に雨乞師は祭壇中央に設置された大きめのボタンをポチっと押した。  すると外からはサァーっという何かが降ってきて屋根に当たる音が聞こえてきた! 「雨か!」  村人たちが喜び勇んで外へ出てみると、細かい砂が降ってきているだけだった。 「砂……?」 「おいおい、これじゃむしろ乾いてしまうよ!」  村人たちからの厳しい視線に雨乞師はバツが悪そうな顔をして、村人に言い放つ。 「だから言ったろう、難儀すると。引き続き儀式を執り行うから、気長に待っていてくれ」  村人たちは諦めておのおのの家へと帰っていった。  その後も雨乞師の儀式は続いたが、結果は振るわなかった。  ナスが降ってきたり、スマホが降ってきたり、ホットケーキが降ってきたり。一体どういう理屈で降ってきているのか全く謎であったが、それはそれで生活の役には立ったので村人は文句を言わなかった。  キュウリ、リンゴ、ゴリラにラッパなんてものが降ってきたりもした。しかし雨は一向に降らなかった。 「おいおい、いつになったら雨が降るんだ!」  すっかり太った村人たちの我慢もさすがに限界。儀式会場へ押し寄せてきた。飲まず食わずの雨乞師はすっかりやつれていたが、しかし不敵な笑みを浮かべて皆に宣言した。 「ようやく『あ』まで到達した……準備は整った! 次こそ雨が降る!」  言っている意味は分からなかったが、とにかくそういうのだからと怒りを抑え、村人たちは固唾を飲んで最後の儀式を見守った。 「ふんだらら~やんだらら~。雨よ、降れ!」  ぽち。  ボタンを押すとともに外では何かが降ってくる音! 今回こそは!  村人たちが喜び勇んで外へと飛び出してみると、飴が降ってきていた。  雨乞師は頭を抱えた。
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